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カウンセラーの対談「第12回斎藤環氏、山登敬之氏、新倉、向後カウンセラー座談会<第2回>」

第12回斎藤環氏、山登敬之氏、新倉、向後カウンセラー座談会<第2回>

斎藤環氏 プロフィール

斎藤環氏 1961年、岩手県生まれ。1990年、筑波大学医学専門学群環境生態学卒業。医学博士。

現在、爽風会佐々木病院精神科診療部長(1987年より勤務)。また,青少年健康センターで「実践的ひきこもり講座」ならびに「ひきこもり家族会」を主宰。専門は思春期・青年期の精神病理、および病跡学。著書に 「文脈病」(青土社)、「社会的ひきこもり」(PHP研究所)、「戦闘美少女の精神分析」(太田出版)、「『社会的うつ病』の治し方」(新潮社)、「キャラクター精神分析」(筑摩書房)。

 

山登敬之氏 プロフィール

山登敬之氏精神科医、医学博士。1957年東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程医学研究科修了。
専門は児童青年期の精神保健。

国立小児病院精神科、かわいクリニックなどに勤務した後、2004年に東京えびすさまクリニックを開院。ハートコンシェルジュ顧問。著書に「拒食症と過食症」(講談社現代新書)、「芝居半分、病気半分」(紀伊國屋書店)、「パパの色鉛筆」(日本評論社)、「新版・子どもの精神科」(ちくま文庫)ほか。

 

座談会第2回

山登敬之(以下 山登):斎藤先生が言ってるけど、解離が増えたから、ボーダーライン減ったていうのはホント?

斎藤環(以下 斎藤):僕はわりと本気でそう思っていますけれどね。少なくとも、治療者がとことん巻き込まれるようなボーダーは明らかに減っていると。ストーカーまがいになるような重量級のボーダーは減って、ODやらリスカやらをくり返す、いわば"プチ"ボーダーは増えました。

新倉カウンセラー(以下 新倉):それは確かに言えていると思う。

山登:斎藤先生が歳をとって巻き込まれなくなったからじゃないですか?先生の周りからそういう患者さんがいなくなった、と。

斎藤:確かに。若い頃はいろいろひどい目にあいました。さすがに今はないですけれど、昔診たボーダーに。若いと技術的に未熟な上に時間もあるし、ついつい"お世話"しちゃうんですよね。コミットしすぎてしまう。

山登:お世話をしてしまった。

斎藤:やっぱりあれはお互いさまってところがどうもあるような気がしますね。

新倉:その、ハードな方ですか?

斎藤:そうですね、ハードで誘惑的なというか。

新倉:魅惑的な・・・(笑)

斎藤:どこか魅力があるから巻き込まれる(笑)。

山登:でも、まぁ、斎藤先生だから、ボーダーもヒステリーでしょ。

斎藤:ですね。これも個人的にはヒステリーの延長線上にあると。人格障害とは考えていないです。実際、日本の臨床場面では、Ⅰ軸診断に準ずる扱いを受けてますし。
よく家庭内暴力をふるっている子にすぐボーダーとか診断してしまう人いますけれどね、あれはちょっと信じられない。誰でもある状況下ではスプリッティングに陥るし、夫婦げんかのときとかあるじゃないですか。要するに慢性化したスプリッティングの病理ですからね、ボーダーは。家庭内ボーダーみたいな人はいくらでもいるでしょ。そういう不安定な行動パターンが状況に依存しないで出ていたらボーダーラインと診断しますけどね。

新倉:確かに、家庭内ボーダーは見受けられますね。先生は、状況依存型に関してはボーダーとは診断しない。

斎藤:語義矛盾だと思います。人格障害の定義に反していると思いますね。ひきこもりを回避性人格障害と診断しないのと同じ理由です。

向後カウンセラー(以下 向後):確かにそうですよね、たとえばひきこもりの人って家庭内暴力をするけれど、入院しちゃったらすごい大人しくなってしまう人が少なくありません。

斎藤:本当に大人しくなっちゃいますから。本物のボーダーが入院したら病棟中が振り回されてえらいことになります。幸い、最近はそういうレベルの人を診ていませんけれど。

新倉:そうです、病院中大変なことになりますよね。スタッフとか面倒を見切れなくて完全にお手上げ状態になってしまう。外来ですら、本物のボーダーには非常に苦労します。受付に電話をかけてきて延々と文句をまくしたてたり、待合の廊下で座り込んで梃子のように動かなくなったり、薬剤師さんが気に入らないと言ってお薬の受け取りを拒否して勝手に帰ってしまったりと、スタッフ一同、本当に辟易としてしまいますね。

斎藤:そう、そういうタイプは、かつてよりは減ったってことです。

新倉:でもプチボーダーは増えている。先生のおっしゃるプチボーダーってどういうタイプですか?

斎藤:治療者に絡むと言っても、せいぜい電話が多いくらいで、あとはリストカットとか、ODとか繰り返すようなタイプですね。あんまりこちらにからんでくるって感じではなく、最近ではむしろネットで遊んでいるように思います。mixiとかのSNSなんかで。

新倉:そうですね、ネット系で書き込みをされた内容に反応して、体調や気分が一夜にして崩れたって訴えてくる話は多いですね。ネガティブな刺激も受けるのだから見るのやめればいいのに、って思うんですけどね、彼ら好きですね。書き込みを通して自分が他者に受け入れられていることを確認しているような感がある。

斎藤:ボーダー同志が横につながるネットワークが出来ちゃったんですよ。ボーダーコミュニティーです。

一同:

山登:みんなで迷惑をかけあいましょうと(笑)

新倉:怖そうです・・・

斎藤:みんなで同報メールで「あたしこれから死にます」とかやっているわけでしょ。なんか巻き込み合って悲惨ですよもうあれは・・・

山登:相互扶助にならない、と。

新倉:害にはなっても相互扶助にはならないと(苦笑)。

斎藤:「メンヘラ」って呼ばれる人々がこれだけ増えたっていうのは、主にそういうプチボーダーの人達のことだと思ってますけどね。発達障害かプチボーダーでしょ。

新倉:今年の4月から学校での臨床を少しやっていますが、発達障害も増えているんじゃないかなという印象がありますが、山登先生どうなんでしょうね?学校はいま本当に大変なんですよ。

山登:大変ですよ、学校は。ADHD(注意欠陥/多動性障害)とかPDD(広汎性発達障害)とか名前がつくようになってから、そういう子がワァーと増えているわけですよ。

新倉:それは診断名がついたからでしょうか?

山登:いや、そればっかりじゃなくて、斎藤先生が本の中でも触れているように、学校文化、子供集団のなかで、よりコミュ二カティブであることが求められるようになってきて・・・

新倉:コミュ二カティブでなければならないと。

山登:コミュ二カティブでなければ適応できない世の中になってきて、それからこぼれ落ちる人たちがたくさん出るようになっちゃった、ということも言われてます。まぁ、そう意味で、子供にも名前つけて仕分けしないと学校側も対応しきれなくなっちゃった、と。オレは、子供集団が力を失ったこともデカイと思ってますけど。昔は、多少のデコボコは、集団の中で揉まれるうちに修正されていたのではないか、と。

新倉:確かにコミュ二ティーベースでの子供集団が殆ど無くなってくなっていますね、都会では。

山登:今は兄弟も少ないし、横町の悪ガキグループなんかもないわけじゃない。昔だったら小学校あがる前に育ってたはずのが、みんな育ってないまんま学校へ上がってきちゃっているっていうとこもあるんじゃないですか。それは、家庭のしつけの問題とも、また別の事情があるように思う。

新倉:それも大きな要因のひとつかもしれませんね。

斎藤:一応建前上は脳の器質的障害ってことになっているわけですから、そういう病気が急増するっておかしいわけで、放射能とか環境ホルモンとか、あるいはゲーム脳とか(笑)持ち出すなら別だけれど、それもちょっと考えにくい話でしょう。私もやっぱり過剰診断だと思いますね。僕のところに発達障害ってふれこみで来る人には、心理検査をきっちりやるようにしていますが、半分くらいはそこで誤診と判定されます。

向後:学校で何かあるとプチ知識というか蔓延しててね、すぐにADHDとかアスペルガーだとかとか、先生が。

山登:ADHDとかアスペルガーとか、ああいうのを学校が認めたのは教育の敗北じゃないですか?

向後:そうですよ、そう思いますよ。

斎藤:完全にそうですよ。

山登:だって、基本的には教育問題ですからね。

向後:さっき山登先生とお話していたんで すけど、学校の先生は怒ら ないじゃないですか。怒らないと子供はわぁ わぁやりますよ。わぁわぁやっていたらADHDだと判断されてしまう。そんな感じがするんですよ。「おまえら静かにしろ!」とやりゃいいと思うのですがねぇ。

山登:実際、ADHDが疑われて連れてこられる子には、親と教師がもめているケースがけっこうあるね。まぁ、担任との相性もあると思うんですよ。ADHDみたいな、やんちゃな男の子って、嫌いな先生はホントに嫌いですからね。

新倉:徹底的に嫌いですね(笑)。

山登:きちんと学級経営をしたいような中年の女教師なんていうのは、そういう秩序を乱す生徒っていうのをすごく嫌うんですよね。

向後:これカット、カットかな(笑)

新倉:教師との相性が大事ということもあると・・・つまり先生との相性が悪ければ、やんちゃな子供の立ち歩きや注意散漫はADHDとレッテル貼られてしまうこともあるということですね。

斎藤:文科省の調査でクラスの4%が発達障害という統計がありますけれども、明らかに多すぎるし、誰が診断したのかと思えば、担任教師の診断だっていうのだから、これはもうお話になりません。おおかたDSMかなんか使っているんでしょうけど、DSMなんて印象診断ですから、粗すぎてとうてい使い物にならない。

山登:といういいお話を聞いたから、僕はそろそろ・・・(退室)

斎藤:特にアスペルガーに関しては独特の認知障害があることが分かっているわけですから、それがないものまで診断してしまうのは行き過ぎです。コミュニケーション障害のもとにある認知機能障害をきっちりとスクリーニングしないと診断をしてはいけないと僕は思います。逆にそれがある人は集団にとことん馴染めませんからね。1年か2年デイケア活動とかに参加してもらって、それはもう一生懸命参加するんだけれど、どうしてもなじめない子って何人かいるわけですよ。その子はだいたい例外なく発達障害。
それと僕が重視しているのは、そう診断されて本人が安心するかどうかっていうところ。僕が診るのは成人の発達障害事例が多いわけですが、本人が生きづらさを感じていて、その生きづらさに発達障害っていう形を与えることでちょっと救われた気がするとか、生き方の方向をちょっと変えられるとか、そういう救済の意味が多少なりともなければ成人事例を診断する意味は全然ないと思いますね。だって「治療できない」んでしょ、タテマエ上は。もう大人だから、いまさら「療育」もできないし。

新倉:成人に関してはそういうことですけれど、子供に関しては、その診断名をもらった方が、親がある意味で安心するっていうこともあるような気がするのですが・・・、親の養育の方法に問題があったわけではなかったとね。

斎藤:親の問題で、親が免責されるための診断になりやすいですね。もともと脳が悪いんだから、私の育て方は関係ないわみたいに。でも、器質的な問題がある子のほうが、むしろ育て方が大きく影響するんだから、安易に免罪符にしてはいけないと思いますけれど。

新倉:免罪符にしてはいけないって少し厳しい感じがしますが・・・親も子育てする中で、他の子供たちと自分の子供を比べて、色々と上手く扱えないことがあり、それなりに苦労していることも多々あると思いますが?

斎藤:もちろん、本人と同様に、ずっと得体の知れない苦労をしてきた親御さんが、苦労の正体がわかって安心する、ということは大切なことだとは思います。その辺のさじ加減は難しいですね。親のせいじゃないなら、あとは専門家に丸投げ、では困るんです。診断を機会に、改めてちゃんと関わろうとする親御さんだったらいいと思いますけどね。

新倉:その診断をもらうことによって親御さんの関わり方が変わってくる場合ですか?

斎藤:関わり方をきっちり変えましょうという風に前向きに捉えられる人だったら診断は有意義でしょう。治療者もそういう方向付けを積極的にすべきだと思います。神田橋條治さんの「発達障害は発達します」という名言がありますね。建前上、治るとは言えないまでも、発達障害もまた発達するというのは事実なわけで、みんながみんなサヴァンとはかぎりませんけれど、やっぱり何か得意分野があったり人並み以上のものがあったりすることは少なくないわけですから。僕の診ているケースでも、どうしても対人関係は改善しないけれどコンピューターは得意だったりする人は、それを活かせる場面では生き生きできる。ひとつのものさしに拘らずに、コミュニケーション能力もいったんは脇においといて、得意なスキルの方を先に伸ばすっていう方針転換で動くケースもありますね。たとえは悪いかも知れないけれど、ゼロを1にする努力よりは、1を10にする努力のほうがより確実であると僕は考えています。

向後:そういう取り組みっていのはちょこちょこ始まってるみたいですね。

斎藤:ええ、でもニーズに全然追いついていないですね。困るのは医療の外部ではみんな騒ぎだしている。医療の現場以外では発達障害ブームみたになっていて、素人診断やラベリングがすごく増えているという状況は問題ですね。じゃあ医療はマシなのかと言えば全然そんなことはなくて、医療の内部での認識はむしろ遅れているわけです。特に僕よりも上の世代の医師は発達障害の教育をろくに受けていない。

新倉:へぇ、そうなんですか?(驚)

斎藤:そうです。もちろん疾患の知識は小児科で習うし、小児科ローテートを経験した人は自閉症も診ている可能性がありますが、僕は自閉症を受け持ったことはない。だから正確な診断ができないので、統合失調症と誤診していることも多いです。僕も色々勉強した結果、遅ればせながら、ようやく最近きづきはじめた感じです。統合失調症やひきこもりと誤診していたケースは結構見つかりましたね。患者さんには事情を理解してもらって、希望者には専門の病院を紹介しました。後の人には「一緒に勉強していきましょう」という感じですね。判って方針を変えたところですぐに治るってわけではないので・・・。

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