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カウンセラーの対談「第9回松崎一葉氏、新倉カウンセラー対談<第2回>」

第9回松崎一葉氏、新倉カウンセラー対談<第2回>

松崎一葉氏 プロフィール

松崎一葉氏[筑波大学大学院・社会医学系 産業精神医学・宇宙医学研究グループ 教授]
1960年生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了、精神科医、医学博士。東京都庁知事部局健康管理医、宇宙航空研究開発機構(JAXA)主任研究員、茨城県警察本部健康管理医のほか、企業の精神科産業医として国内外で活躍。著書に「会社で心を病むということ」(東洋経済新報社)、「もし部下がうつになったら」(ディスカバー携書)など。

 

インタビュー第2回

新倉カウンセラー(以下 新倉):産業医は、企業に雇われている立場なので、会社側の立場や事情も理解し、かつ従業員側の状態も理解するという、中立的な立場にいるのではないかと私は考えているのですけれども、話を聞いているとかなり会社寄りの方であったりとかします。従業員としては、 ある意味、産業医の中立的な判断を頼りに面談に臨むわけですが、従業員側には助けになっていない場合もあり非常にびっくりしました。

松崎一葉氏松崎一葉(以下 松崎):所謂エンドポイントの設定について2つ話したいことがあるんですけれど、まず、僕の場合はね、一つ目は基本的には「会社が切ることはないから、なんとか頑張っていこうね」で始めます。ところが、様々な努力をしてもどうしてもやはりどんな支援をしても上手くいかないような人達に対しては、ある期間を持って、そろそろ退職も視野に入れて考えなくてはいけない時期にきているよって言います。

新倉:それは期間的にどのくらいなのですか?前述のクライアントなんて、いじめがエスカレートして不眠・食欲不振・恐怖感がひどくなり初めて1〜2ケ月間休んだのですけれども、辞めるか、あるいは恐怖を抱えながら同じフロアーにいるいじめの加害者と働くか、そういう決断を迫られる形になってしまったんですけれど、先生はどのくらいのスパンを考えるんですか?

松崎:その人が、所謂上昇ベクトルが上向くかどうかということですね。ベクトルが全然上向かない場合には、割と早めに色々な措置をとるけれども、それでも一向に上向かない人にはそう言いますね。ベクトルがちょっとでも上向いていれば、ちょっとでも良い方向にいっていれば、僕は基本的に退職も視野に入れてという話はしないですよ。ところがね、一年二年ってそうやって一生懸命支援してきても、本当に頑張っていって、ラポールもきちんと形成されているなと思った職員さんでも、「退職も視野に入れて考えないといけないよね」って言うとね、主治医の所に行って「シナリオ通りに進められた」と言われるんですよ。

新倉:なるほどね(苦笑)。

松崎:「結局は松崎先生も自分を切ろうとして会社側についている」という風に言われるんですよ。

新倉:それは非常に残念ですね。産業医としてはやれるだけのことはやったのに、そういう取られ方をしてしまうのは、やはり従業員さん側にある種の被害者意識や会社への不信感みたいなものがあるのかもしれませんね。

松崎:そうですね、でも僕はね、きちんとクレームに対して説明しなおします。つまり最初のうちは会社がなんて言おうと、辞めさせるような態度が見えたとしても、僕はそんなことはさせないよと、産業医としてさせないよと。だから何とかして適応するというところをエンドポイントとしてやろうよという姿勢です。

新倉:要するに、その会社内で適応出来るようにと、同じ部署なのか他部署なのかは別として、でもその会社での適応の場所を探るということですね。

松崎:そうですね。それがやはり一年二年やったとしても行けたり行けなかったりということをいつも繰り返していて完全に適応が出来ない、ある程度60%位のところまでくるとまた落ちてしまうということを繰り返している人たちに対しては、僕は今言ったように「退職・転職ということも視野に入れて考えなきゃいけない時期だね」と言うんですよ。でもその方は、実は松崎も会社側だったと言う。でも、実はそうではなくて、やはり人生は一度なのだから、一流企業に勤めていて、そこで傷病手当金だとか、休職してお金をもらいながら適応できないと言いながら、貴重な若い時代の数年を過ごしていくということが良いことなんだろうかと思うわけです。だからもっとノルマ要求の低い、給与が低い、知名度も低い会社かもしれないけれど、今の自分の状態で、きちんとそこのノルマ要求にこたえられるような会社ってあるじゃないですか・・それはアルバイトでもいいんですよ。だからそういう風な人生と、ハイレベルな要求を強いられる上場企業で休復繰り返す、そのどちらにいるのが自分にとっては幸せなんだろうかということを、所謂、実存ですよね、実存についてそろそろ考えなければいけない時期だよと、そういう風な意味で言っているんですよ。

新倉:先生は産業医だからといって会社側について辞めさせようということではないんでしょうけれども、中には本当に会社側についているんじゃないか?と思わせる方とか、会社の事情や職場環境の情報収集が十分でなくて、通り一辺倒の措置をしている産業医さんもいるのかなぁって思います。

松崎:それまでは辞めるといっても僕は止めるし、会社が辞めさせようとしても阻止するし、本人を何とか治療のエンドポイントの復帰にもっていきますけれど、ある程度までいってしまうと、2〜3年になってくると辞めるということもひとつのオプションとして自分自身の実存をもう一回考えなおそうという風に、僕はもっていきますね。そこに誤解が生じることが多いんですけれど。

新倉:確かにおっしゃる通りですね。私がクライアントさんと話をしていて感じることは、基本的にはどんなに重くても、だいたい一年以内で戻れると思っています。定期的にカウンセリングして、生活リズムを整えて、服薬治療をしていれば回復していきます。でも、なかには、途中までは上昇ベクトルでいい感じに上がってきて、来月には産業医さんのOK出て、恐らく復職出来るなと思ったところで、またグーと下がってしまうような方もいます。そうこうしているうちに一年経過してしまう。もしかしたら、クライアントさん自身が「復職する」、「この会社に戻る」ということに対しての抵抗みたいなものがあるのかなと思うことがあります。そういう時は、「本当に会社に戻りたいと思っているの?」と投げかけてみます。そういうクライントさんは、だいたい共通して非常に「こだわり」が強かったりするんですね。

松崎:なるほどね。

新倉:例えば「戻る」っていうことに対しても、自分が戻る部署だとか、そこにいる人が云々ということに対しての拘りがあるんです。会社っていうのは組織じゃないですか。だから自分の職務以外に組織の様々なルールや慣習があって、それが会社にいると見えてきますよね。そういうことに対して、ご本人の正義や倫理に触れるとか、そういうことに対する拘りが強い方はなかなか戻ろうってときになると下がってしまう。戻りたくないから下がるのかな?なんてふと考えます。そういう方には、「この会社に戻ることが、健康な状態になることなのか?」と問いかけます。

松崎:大事な視点ですよね。こだわり強い人多いですよね。確かにコンプライアンスに反するようなことを会社が少し何かうやむやにした、それが許せないとか、あと所謂自分に対する見方。長く休んでいて戻ったら、後輩だった子がその間ずっと自分の代わりにバリバリやっていた。私がそこに戻ったら、私のことを彼女や周りはどう見るだろうか?私はそういう視線に耐えられないとか、でもそういう風なこだわりが強い人が確かに多いですよね。逆に言うと、新倉さん的にはこだわりを捨てさせるようにするの?

新倉:いや、まずその「こだわり」に気づかせるんです。

松崎:ああ、なるほどね。

新倉:そのこだわりに気づくまでに、カウンセリングでかなりの時間がかかることもありますね。私はいつもその四文字、「こ」「だ」「わ」「り」という四文字をXXXXとして、絶対にクライアントさんに答えを与えないんです。自分で見つけてもらいたい。そういう方って基本的には内省には乏しいことが多いです。外、つまり外界、誰がどうだとか云々はよく見えるけれども、自分の内は見えにくいみたいです。

松崎一葉氏松崎:ふーん、なるほどね。

新倉:クライアント自身に自分のこだわりに気づいてもらう、見つけてもらう、それが大事です。だから長期戦になります。私がクライアントさんに「あなたはXXに対する拘りが強いですよね」と言うのは簡単ですが、それは全く効果的ではないです。こだわりをひとつ具体的に考えたとき、例えば服薬治療への抵抗、こだわりを持っているクライアントもいますよね。薬は絶対に飲みたくないっていう方。薬は飲みたくないので、カウンセリングでなんとか治して下さいみたいな、そういう方。私は医師ではないから服薬の適応不適応の判断は出来ないけれど、うつ病・適応障害の色々なクライアントさんを沢山診ていて、多分この方は服薬治療も併用したらもっとスムーズに治療効果が上がるのでは?と思ったりします。でも、薬は飲みたくないことに拘って時間が経過する。

松崎:そうですね。基本的に薬物療法っていうのは、こだわりによって生じた軋轢、葛藤が出てきたときの適応障害、そこから出てくる抑うつ症状に対してそれを緩和するだけのものであって、本人のこだわりという本質的には効かない。だから、それを併用して行って局地的に出てきた抑うつ症状を抑えることによって、さらに認知が頑なになっていくということを少しお薬によって防ぐっということですよね。

新倉:そうですね、不適応の根源がもしその方のこだわりにあるのであれば、それは薬では治せません。カウセリングが効果的だと思います。でも、状態が非常に悪いときはカウンセリングすら出来ませんから、少なくともカウンセリング適応レベルになるための服薬治療が必要になってきますよね。

松崎:基本的にはこだわりに対する介入は、カウンセリングとかが必要ですよね。それは認知行動療法とか有効ですか?

新倉:そうですね、認知行動療法は適応の方はすんなり入りますね。だけど、これもやってみて苦手な方がいらっしゃって、そういう方は教科書的に適応的思考までは考えられるのですが、そこまではたどり着くのですが、その適応的思考を自分のものにできない、つまり本人の役には立たないってことです(笑)。

松崎:なるほど、私はこういう風な自動思考をしてしまうから、こうなっちゃったなー、でも自動思考からは抜けられない。

新倉:そうですね、だから、そこも自分の自動思考に対するこだわりなんですよ。私はこういう風に考えるのだから、それを他の適応的な思考で差し替えるのは、自分の価値観や自分自身を否定するような感じがするとか、なんかそういう風な表現をされる(笑)。

松崎:さきほど最初に言った情緒的な内界の話をしますけど、そういう人達はなんていうのかな、情緒と論理のバランスって大事だと思うんですけれど、もう一つ言えば意が入ってきてね、知・情・意のバランスと昔から言って大事じゃないですか。まぁ、意の部分は置いておいて、知の部分の論理的な部分と情の部分。最近どうも論理偏重主義的な情緒的な内界が狭い人が多いと申し上げたのですが、そういう風なこだわりの強い人って、ある意味情緒的な内界が狭くないですか?

新倉:そうですね、話をしていてそう感じますね。狭い所でずっと生きてきているわけですから、広げることに対しても、当然広げ方もわからないわけです。その広がりを例えばイメージしてみましょう、みたいな形でちょっと誘導したりもするのですが、やはりなかなか入り難い感じはありますね。

松崎:なるほどね、やっぱり僕なんかも知の論理の部分が強かったんですけど、あるときからやはり情緒的な部分が広がってきたんじゃないかなって自分ではそう思っています。そうなってくると、非常に楽は楽なんですけどね。

新倉:やはりバランスが悪いと上手く処理できない部分が出てくるじゃないですか。常に知的な部分で処理をしている方は、自分の情緒面に対してのアクセスが非常に弱いから、色々な葛藤がね、例えば職場なんかでこんちきしょーと思うような上司がいてその上司に対して怒りの感情を持っていても、その辺の処理が上手くできなかったりします。知の部分が強いから、「合理化」、「知性化」というような防衛機制で処理出来ているうちはいいけれど、その許容範囲を超えてしまうと、そこで折れて不調に陥ることになってしまう。そういうパターンですよね。

松崎:そうですね、最近労働環境が悪くなっているから、合理化しようと思っても合理化できない。これだけ辛い環境にあったとしてもこれだけいい給料くれるんだから、なんとか我慢しようとなんとか合理化してきたんだけれど、景気が悪くなってくるとそういうこともなくなってくるから、何もいいことないじゃないって合理化さえできなくなってしまう。そこで息詰まってしまう人達がいますよね。そんな中でもうちょっと情緒的な処理で、まぁこんなこともあるけど、こんな風な上司もいるけど、まぁ、世の中そんなものなのかもしれないな〜という風に情緒的な処理が出来るということは、非常に大事なことだと思うし、そういう風に誘導したいと思いますけれど難しいことですよね。

新倉:はい、難しいです。不調を起こす方の中で、高学歴で頭は非常によかったりする方もいらっしゃって、頭がいいので知の部分が優位でいつもそこで勝負している。確固とした論理や思考があり、なかなかアバウトというか、もっと広い、ある意味グレーゾーンですよね、そこに委ねて処理をする経験していない人たちだから、情緒的な処理は難しいのかなという気がします。

松崎:そうですね、スプリッティングを起こしやすい人は、ゼロか壱かだからね。物事にはグレーな部分があるんだけれど、上手くいかなかったらそれは全部ダメで全否定をしてしまいますよね。グレーゾーンがない人はスプリッティングを起こしやすい人達ですね。

新倉:だから話を聞いていると、そこそこ出来ているよねと、80%〜90%位できているのに、でもここの部分はちょっと上手くいかなかったねと、だから次回そこを参考にしてまたやればいいんじゃないの?と私などは思ったりしますが、そういう風に思えなくて、いや、ここの部分が出来ていないから自分はダメなんだと短絡的に結論づけてしまう。80%の成果はすっかりどこかに吹っ飛んでしまって、20%の出来てない部分にばっかり焦点があたってしまうところがある。

松崎:まぁ、いわゆる森田神経質みたいな、こだわりの部分に繋がってくると思うんだけれど、最近、僕ね、ときどき患者さんに聞く質問で、奥さんと夫婦げんかをすると不協和音の状態が続くでしょ。そういうなんとなく同じ屋根の下で暮らしをしていて、冷戦みたいな、完全に打ち解けていないような状態がありますよね。

新倉:ありますね、なんとなくぼわ〜んとした、まぁいつもの感じじゃないけれど、どうしようもなく居づらい状態ではない、みたいな(笑)。

松崎:そういう状態があるでしょ。そういう状態って、どれくらい放っておけますかって聞きます。

新倉:あぁ〜、いい質問ですね。どうですか、そう聞くと?

松崎:論理的で優秀な人はね、私は愛する妻とはそういう風な居心地の悪い状態であることはあり得ないので、徹夜であったとしても議論をして合意点に達するように努力しますと。

新倉:うふふ・・・なんか疲れちゃいそうですね〜、一緒に住むの。

松崎:すごい嫌でしょ。そうじゃなくてね、非常に情緒的な人は「いゃー、まぁ妻といえども他人ですから、考え方も違うこともありますよね。お互い夫婦で愛し合っていることには変わりないから、まぁ、居心地が悪いけれどそういうこともあるよねって放っておくんですよ。そうすると、まぁ3日くらいするとなんとなく自然にまた元にもどったりしますから」という風に答える人は、僕は仕事でもタフだと思いますよ。そういった、情緒的な共感性や余裕がある方は。

新倉:要するにそういった曖昧さをどれくらい許容できるかっていう、その幅があるかどうかの話ですよね。限りなくグレーみたいな(笑)。

松崎:そうそうグレーゾーン。なんか奥さんといまいちうまくいっていない、しっくりこない心地悪さみたいなものをどれだけ自分自身で受け止めるだけの度量があるかってことですよね。それはね、情緒面で受け止めて解消していくしかない。大事なことですよね。

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