カウンセラーの対談

第47回 吉福伸逸さんのコーマワークをめぐって<第1回>

本多正久 プロフィール

医師・医療法人本多友愛会理事長
愛知医科大学卒1981医師となる。1981~1988福島県立医科大学第一外科で頭と整形以外の外科を習得。1989昭和天皇ご崩御と共に日本医科大学救命救急科に入局。同年7月アメリカ、ミネソタのメイヨ―クリニック、セントメリー病院で救急医療の研修後、郷里の宮城県角田市にある仙南病院に帰り1996から医療法人本多友愛会理事長。救急、災害医療から看取りまで何でもやってます。

 

稲葉小太郎 プロフィール

編集者
1961年、神奈川県生まれ。東京大学文学部印度文学印度哲学専修課程卒業。出版社に勤務ののち、フリーで編集、執筆をおこなう。著書に『コンビニエンス・マインド』(大蔵出版)がある。

インタビュー 第1回

向後カウンセラー(以下向後):まず本多先生から、吉福さんとの関わりをお話しいただけますか。

本多正久氏(以下本多):吉福さんのことは、天外伺朗さんに教えてもらったんです。東北大学で呼吸器内科の教授をしていた貫和敏博さんという方がうちにずっと来られていて、彼は西野式のインストラクターなんです。それで私も飛ばされてよろこんでいて(笑)。

向後:あれ、ほんとに飛ぶんですか。

本多:飛びますよ、けっこう。

青山カウンセラー(以下青山):合気道みたいな?

本多:まあ、近いですね。そのころずっと病院経営のことで困ってましてね、研修制度が変わっちゃって、いままでのやり方だと医者が来なくなっちゃったんですよ。でもなんとか来てくれる人を見つけて、そんなとき天外さんがNHKのラジオに出て、フローの話をしてたのをたまたま聞いたんです。

向後:そのころからフローの話を。

本多:チクセントミハイのフローの話をしていて、会いたいときに、会いたい人に会えるのをフローっていうんですよって。それが、僕にいま現実に起きていることそのまんまだったから、この人に会いたいって思って。天外さんも西野式をやってたので、貫和さんにこの人知ってる?っていったら、来週仙台に来るって。それで天外さんと会って、そのときに吉福さんっていうとんでもない人がいるから、こんど佐賀の矢山クリニックってところでやるからおいでって。えらいこっちゃって思いながら行くわけですよ。そこで吉福さんと会ったわけ。

向後:矢山クリニックではワークショップをやったのですか。どけのワークとか?

本多:そうそう。あと呼吸法で、最初にハイパーベンチレーション自分でやらされて、意外にできないもんですね。

稲葉小太郎氏(以下稲葉):矢山クリニックは2006年3月ですね。

本多:そうか、出会いは2005年のはずですよ。

向後:吉福さんがこっちでまた活動を始めたのは2004年ですかね。

稲葉:2003年がハワイ・マウイ島ですね。2004年の春から、日本で講演やワークショップが始まっています。

本多:そのころ私もそういうことで、深く病んでおりまして、心の導くままにいろんなワークに出て。やるたびに解放されていく感じがありました。

向後:最初はびっくりしませんでした? なんだこれはって。

本多:ハイパーベンチレーションでね、自分がどうなってるかわかんないという、そこまではいまだにいってませんけどね。

向後:では、稲葉さんもお願いします。吉福さんとの出会いは?

稲葉:私の場合は、大学でインド哲学というのをやっていまして、もともとこういう世界には興味があったんですね。ただ大学で教えるような大乗仏教概論とか中国仏教史とかではなかなか満足できなくて、クリシュナムルティとかラジニーシとかを読んでいましたね。それで卒業したあとに、トランスパーソナル心理学というのがあるというのを知って、これはいいぞと。でも本格的に興味が出てきたのは吉福さんがハワイに行っちゃったあとなんです。それで岡野守也さんの朝日カルチャーの講座に出たり、ティムとよし子のワークショップに行ったりしているうちに、こんど吉福さんが帰ってきてワークをすると。それで93年、観音温泉のワークショップに参加して、吉福さんに会ってびっくりして(笑)。

向後:どんな感じでしたか?

稲葉:向後さんと一緒ですよ。あんな難しい本を訳した人だから、学者みたいな人が出てくるのかと思ったら、短パンにTシャツで。

向後:あれ、わざとでしょうかね。でもああいうラフな服がおすきなのでしょうね(笑)。

本多:いつもなんか、ボーダーのTシャツ着て、ジーパンで。

稲葉:それでまあ、すぐインタビューの約束を取り付けて、岡山の吉福さんの実家まで行きまして。120分テープで5本分くらいかな、まる二日間インタビューさせてもらったんです。

青山:すごい。

向後:それはどこかに発表されました?

稲葉:僕がやっていた同人誌、「WHO ARE YOU?」っていうのに、5回連続で載せさせていただきました。その日は吉福さんの部屋に泊めてもらって、お母さんが御飯作ってくれて。

向後:岡山のご自宅に行かれたんですね。

稲葉:お料理がすごく上手なんですよ、お母さん。そのあとは、「リラックス」という雑誌に連載をしてもらったり。そういうつきあいですね。でもその雑誌も休刊になってしまって、しばらく疎遠になっていたんですが、あれは2011年かな、吉福さんから電話をもらったんです。本を出したいんだって。でも結局うちの会社では出せなくて、のちに『世界のなかにありながら、世界に属さない』というので出たんですが。そのことがひっかかっていたので、吉福さんのことをちゃんと残しておかなければいけないと思って、みなさんに取材をさせてもらっているところです。

向後:最後にトランスパーソナル学会で講演会をやってもらったのですが、それのビデオは観ています?

稲葉:いえ、観ていないです。

向後:それじゃあ、あとでお見せしますよ。最後にやってくれたんですよ。西荻窪でやったんですよ(2011年10月2日、西荻地域区民センター)。

稲葉:それは例の4つの力の。

向後:あれを、最後はみんなに伝えたいって。

青山:指宿のときもいってましたね。パワー・オブ・ブレインって。

向後:ブレイン、エモーション、ビーイング、最後がダンス。その4つの層があると。セラピーっていうのはそのどれかにフォーカスしているっていうことでした。その説明を、吉福さんが初めてホワイトボード使ってやったんですよ。みんな「どうしたんですか?吉福さん」って、写真撮って(笑)。

向後:僕はアメリカから帰ってからですね。2004年に伊豆で会って、それから参加しだして、9年くらいやったのかなあ。最後の年に、コーマワークを教えてくれるって言ってたんです。実際にコーマ状態の人のところに行って教えてくれるって。そうしたら、御自分が逝ってしまわれたという(笑)。

青山:あちら側に。

向後:待ってくださいよって感じで。本多さんの病院でコーマワークをやるときは一緒においでっていわれてたんだけど、結局やれずじまいでした。今日はコーマワークのこともお伺いしたいんですが、どんな感じでやるんですか?

本多:まずですね、家族から細かいところまで聞き出すんですね。コーマの状態になっている人の以前のクセとか話し方、家の中の間取り、どこに座っていたかとか。

青山:微細なところまでイメージできるように、細かいところまで聞くわけですね。

本多:そうそう。座っているところから何が見えるかとか。

向後:それは家族から聞くわけですね。

本多:本人はしゃべれないから。

向後:そうかそうか(笑)。

本多:本人は意識もないわけですから。そういうことを全部聞き出すわけです。好きな食べ物とか。

青山:好きな音楽とか?

本多:そう。みんな聞き出しまして、患者さんのところへいくわけです。そうしたらまず患者さんに寄り添って、ほとんど声になるかならないかの声で話しかけるわけです。手はこんな感じで。

青山:寝ている子どもに話しかける感じ?

本多:もっとトーンを落とした感じ。タッチは、ペタってくっつけちゃいけない。産毛に触るか触らないかくらい。

向後:ちょっとやってみてください。ああ、微妙ですね。

本多:触るか触らないかくらい。ほんと、触っちゃだめなんです。

青山:私もやってみてもらえますか。ああ、わかるわかる。微細だ。

本多:触るっていうか、こうタッチしながら、「あなたはいま自宅にいます。いつもの場所に座っています」って話しかけるわけです。

青山:それも低い声で。

本多:「よく晴れた日で、窓から庭が見えます。あなたの大好きな猫が膝の上にいます」。まあ、こんな感じですよ。さっきみたいなタッチをしながら、話しかけるわけです。「もう晩ごはんです。あなたの大好きなステーキですよ」とか。

青山:なるべくなら家がいいんですか?

本多:なるべく自分がリラックスできるイメージがいいでしょうね。家庭がほとんどのようですね。

向後:そのあいだもずっと、手は動かしているわけですね。どこに触るんですか?

本多:だいたい腕でしたね。お腹とかではなく。あとは、動かないところ。動いていたところの情景を吹き込んでいって、「あなたはいま動けますよ」って。一種の催眠みたいなものですかね。「あなたはいま、美味しいものを食べています」っていうと、患者さんの口がもぐもぐ動くんですよ。

青山:へえー。

向後:呼びかけるときは、「あなた」ですか、それとも名前を呼ぶんですか?

本多:名前を呼んでね。「向後さん…」って。

向後:わかります。耳元でやるんですね。

本多:ほとんどね、声になるかならないかくらいの感じなんですよ。やさしーく。そうすると、だんだんひらいていく感じなんですよ。それまでは話しかけても、反応がなかったのに。「はい」という感じで声は出ませんよ。目の動きだったり、なんかの反応ですよ。よだれを出すとか。吉福さんがそのとき言ってたのは、ぜんぜん反応がないひとでも、外でバケツがひっくりかえったり、そういう反応が出るときもあるって言っていました。

青山:その人そのものじゃなくて。

本多:物が反応することもあるんだって。

向後:また怪しい(笑)。ポルターガイストですか。

青山:眼の前に見えている世界だけじゃないんだよって。

本多:そうそう。どういう反応がどこから出てくるかわかんないからね。

向後:それでコーマ状態から醒めてくるんですか?

本多:いやいや、それは変わんない。

向後:だけど目の動きが出てきたり。

本多:リアクションが、いままではぜんぜんわからなかったのが、そういう動きが出てきたりとか。実際そのときはよだれで反応していましたね。あと、片方閉じていた腕がひらくようになっていましたね。それまでリハビリの理学療法士がこの腕ひらいてみろっていってもぜんぜんダメだった。それが吉福さんだと「ひらいてごらん」っていったらひらいたの。

一同:へえー。

本多:同じような方法を使えば、我々でも家族でも反応してくれるわけですよ。だから我々が「はい、ひらいて」っていうと、ひらいてくれるようになったの。

向後:吉福さんじゃなくて、家族の方や本多先生がやるときも「あなたはいまどこどこにいますよ」、みたいなところから?

本多:いや、「私ですよ」、そんな感じくらいではじめていいと思うんですが。

向後:イメージ誘導は必ずしもいらない。

本多:いったん始まってしまえば。

青山:一番最初だけはそういうふうにしていくんですね。

本多:推察するに、寝たきりになっている人って、自分で自分の身を守ることができなくなりますから、看護師さんが来て身体を拭いてくれても、「そこ拭くな」といえないわけです。我々にとって普通のことでも、彼らにとっては防衛しようのない怖いことなんです。

青山:だから、ふれるときも、それくらいソフトに。

本多:ふつうに触られることも、避けられない。すごい怖いことなんじゃないかと思うんです。だから意識が中に中にって、身体の中に潜り込んじゃって、自分を守ろうとしてるんじゃないかなって思うんです。

稲葉:なるほど。

向後:吉福さんもそう言ってました。結局ね、コーマ状態の人は、怖くて出てこれないんだよって。だから触るか触らないかくらいで。そうするとだんだん、大丈夫かなって言う感じで、何か表現してくるのだそうです。

本多:そう。大丈夫って教えてあげると、反応しても大丈夫ねって。それで反応してくれるようになる。そう解釈すると理解できる。

向後:吉福さん、ていねいにやりますもんね。

本多:すごくていねいです。インタビューに2時間位かけるし、ワーク自体も、反応を出すところまで2時間くらいかかるんですよ。都合4時間。

向後:2時間の間、ずっとささやいている?

本多:そうそう。

向後:そうするとどこかが動きはじめる。

本多:自分からは動かないですよ。がちがちになっていたところが、ちょっとひらくかなって。抵抗がなくなる。そういう感じ。

向後:吉福さんは、ほんのすこしの筋肉の動きとか、見逃さないんですよね。

向後:コーマワークは、吉福さんはミンデルのところで憶えたんですか。それとも独自で。

本多:ミンデルとやり方は違うっていってましたね。

向後:僕はミンデルのところでやってた方に聞いたんだけど、呼吸をやりながら触るっていってた。

本多:そうそう一つ思い出した。相手の呼吸にあわせるっていってました。

青山:吉福さん、そうですよね。呼吸をあわせて、あと、思い込みをなくしていくっていう。コーマ状態にいるからってコミュニケーションを取れないわけじゃない。そういう、ありとあらゆる思い込みをはいでいくっていうのはワークの最後にいってましたね。

本多:そうでしたそうでした。相手の胸の動きにあわせて、吐いて吸って。それを追ってリズムをあわせていく。

向後:呼吸合わせをやるわけね、ペーシングっていう。吉福さんのワークの全体にいえるんですけど、イメージを浮かべているんですね。イメージワークのコツとしてはね、自分でイメージしなさいっていうんですよ。頭の中でヴィジュアルにイメージしていると、それがリアルに伝わっていくって。たぶんコーマワークのときも、その人のいい場所をインタビューで聞いて、吉福さんの中にイメージができていると思うんですよ。それで呼吸を合わせることによってなんとなく共感していくというか。

本多:増幅していく。そうすると自分の身体という檻から出てきて、反応しだすんですね。それが彼流のコーマワーク。

向後:ミンデルとの違いとかは言ってましたか?

本多:それは、見たかったら彼の見てきてって。違うからねって。

向後:やっぱり吉福さん独自にやったんだろうなあ。ふだんやってる吉福さんのイメージワークと似てますよね。あの延長。吉福さんのボディワークは乱暴だっていう人いるじゃないですか。

本多:僕はぜんぜん乱暴だと思わなかったけど。

向後:ぜんぜん乱暴じゃないんですよ。押すときだってすごくていねいで。ぎゅ、なんてやらないで、こういう速度ですよね。

青山:そうそう、やわらかくやさしくだよって。

向後:僕らはだいたい失敗するわけですよ。そうすると吉福さんが出てきて、こうするんだよって(笑)。でもほんとにみごとに、相手にあわせているんですよね。その延長でやってるんですね、コーマワークも。

本多:コーマワークはうちでは都合3回やっているんですが、1年目が2回、春と秋、それで翌年にもう1回。なんで3回で終わったかというと、対象者が同じ人になっちゃったんですね。そうこうするうちに、なんとなく、院長がへんなことやってるって話になってきちゃって、吉福さんに相談したら、止めておこうかって。

向後:もったいないですね。

(続く)

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