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カウンセラーの対談 「第37回 「発達障害のおはなし」山登敬之氏、青山カウンセラー対談 <第2回>」

第37回 「発達障害のおはなし」 山登敬之氏、青山カウンセラー対談 <第2回>

山登敬之氏 プロフィール

山登敬之氏精神科医、医学博士。1957年東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程医学研究科修了。
専門は児童青年期の精神保健。

国立小児病院精神科、かわいクリニックなどに勤務した後、2004年に東京えびすさまクリニックを開院。ハートコンシェルジュ顧問。著書に「拒食症と過食症」(講談社現代新書)、「芝居半分、病気半分」(紀伊國屋書店)、「パパの色鉛筆」、「子どものミカタ」(日本評論社)、「新版・子どもの精神科」(ちくま文庫)、「母が認知症になってから考えたこと」(講談社)、「世界一やさしい精神科の本」(斎藤環との共著・河出文庫)ほか。

 

「発達障害のおはなし」 山登敬之氏、青山カウンセラー対談 第2回

山登先生(以下 山登):『ビッグイシュー』というホームレスの人たちを支援する雑誌に、東田直樹くんと往復書簡を連載してたんだけど、それが最近終わりまして。

青山カウンセラー(以下 青山):あら、気がつかなくてすみません。

山登:いやいや、本屋さんで買える雑誌じゃないんでね。で、今回は東田くんの話をさせていただきたいんですが。

青山:ええ、もちろん。

山登:その前に、自閉症について、ざっとおさらいしておきましょう。

青山:お願いいたします。

■ 自閉症スペクトラムの特徴

山登:発達障害の中心的な話題は、なんといっても自閉症スペクトラム、つまり自閉症とその仲間ですね。主な障害は自閉症とアスペルガー障害です。そもそもどういう特徴を持っている人なのかというと、まず中核的な特徴が2つあります。

ひとつはコミュニケーションの問題です。対人的、社会的、感情的事柄に関して適切な理解、コミュニケーション、ふるまいが困難であること。

もうひとつは、非常に強いこだわりを持っていて、特殊な関心に没頭する、同一事物にこだわり固執する、環境の変化に適応するのが困難であるということ。

これ以外にも、付随しやすい特徴として、音やにおい、触覚など知覚にひどく敏感なことがあげられます。ほかには、注意持続の困難、多動傾向、かんしゃく、パニック、気分が変わりやすい、怒りっぽい…このへんはADHDの特徴とかぶってくるところですね。

あとは、手先が不器用だったり運動神経が鈍かったり。いっぽうで、記憶や計算、語学、芸術などの分野でとくに秀でた才能を持っている人もいたりします。

これらが、生まれつきの発達の特徴として現れる一群の人たちを、精神医学は「自閉症スペクトラム」としてグループ分けしている、と、こういうわけです。

■ 自閉症スペクトラムの考え方

図1:広汎性発達障害 山登:DSMシリーズは、アメリカ精神医学会が発行している診断のためのマニュアルですが、これが一昨年の5月にほぼ20年ぶりに大改訂されて第5版(DSM‐5)が出ました。このDSMシリーズ自体、日本の精神科の業界にも非常に影響力を持っているので、これから、さぁ、どうなっちゃうかっていう話です。

この図1に示したのは、第4版(DSM‐W)に載っていた「広汎性発達障害」の内訳です。京都大学の十一元三(といち・もとみ)先生がわかりやすくまとめたものです。

外側の大きな四角が広汎性発達障害という全体のくくりで、横軸に知能、縦軸に自閉症らしさをとっている。右に行くほど知能が高くて、上にいくほど自閉症の特徴が顕著になる。

このように分けてみると、カナー型の自閉症は知能の低い人から高い人までいて、自閉症らしさはもっとも顕著。アスペルガー障害では、知能でいえば中くらいから高いところまでで、自閉症らしさがそんなに濃くない。そして、残りの他のどこにも分類されない広汎性発達障害というのが、じつは人口的には一番多い。

それで、これがDSM‐5ではどうなったかというと、みんな無くなってしまったのです!(図2)

図2:自閉症スペクトラム(障害) 「広汎性発達障害」という言葉も無くなってしまいましたし、「アスペルガー障害」も無くなってしまいました。当然、「他のどこにも分類されない広汎性発達障害」というのも無くなって、みんな自閉症の仲間になりました。自閉症スペクトラム(障害)としてひとくくりになった。

いま、書店にいけば、アスペルガー、アスペルガーって、その手のタイトルの本が棚にたくさん並んでいますけど、あれは10年後にはどうなるんでしょうね。まあ、余計な心配ですが。

それで、下位分類の方はどうするかというと、これがちょっと注目すべきところで、縦軸をケアの必要度に替えて、これを3段階に分けた。知能についても3段階のままですが、知能指数(IQ)を判定の基準から取っ払って、生活の適応状態を見てもっと細かく評価するようにした。そういうふうに大きく変わりました。

青山:こうしてうかがっていると、診断って、なんていうのかしら、取り決め?みたいな…

山登:そうそう、精神科の病気、障害は、わりとこっちの都合で決まってる。

青山:都合って…(笑)

山登:都合っていうか、まあ、医者同士の申し合わせですね。それには、もちろん、脳神経科学や疫学の研究成果も反映されているわけですが。

青山:時代とともに変わるものなんですね。

山登:そう。でも、それは医学の進歩にともなってということばかりではなく、社会の変化、社会の要請によって、というところも大いにあるんです。っていう話は前回もしましたが。

■ 東田直樹くん登場!

山登:で、東田くんなんですが、自閉症スペクトラムってことでいえば、彼は古典的な重度の自閉症に入る人なんだけど、会話ができないのに、自分の意思を文章によって伝えることができる。これはお母さんの美紀さんの熱心な教育と、東田くん本人の努力の賜物といって良いと思います。
それだけじゃなくて、彼には文才があって、小学生の頃に書いた物語や詩がコンクールで何度も賞を取ってる。その時点で、すでに作家だったんだよね。

青山:すごい! いまはおいくつなんですか?

山登:今年で23歳。

青山:まだ若いですね。

山登:昨年、東田くんが中学生のときに書いた「自閉症の僕が跳びはねる理由」という本が「The reason I jump」というタイトルに翻訳されて、これがイギリスとアメリカでベストセラーになった。いまでは、世界20カ国以上で出版されてるといいますから、もはや世界的な作家です。
この話はNHKが「君が僕の息子について教えてくれたこと」というドキュメンタリー番組にして放送しました。そしたら、これがまた大当たりで、再々々放送ぐらいまでしてましたね。

青山:これまでも自閉症の方で本を出版されてる方っていますよね。

山登:います。有名なところでは、アメリカのテンプル・グランディンとか、オーストラリアのドナ・ウィリアムスとか、イギリスのダニエル・タメットとかいますが、あの人たちは会話はできますからね。ちょっと前の言葉でいえば、「高機能自閉症」の人たち。タメットはアスペルガー障害ですけど。日本で本を出してる人たちも、だいたいこのどっちか。でも、会話が成立しない重度の自閉症というのは東田くんだけ。少なくとも日本ではね。

青山: 会話はできなくても、言葉は話せる?

山登:講演会をやってるぐらいだから、話すには話すんですが、彼はね、自分でワープロで書いた文章をマイクを片手に読むんだけど、ほとんどシャウトしている。見てるとパンクロッカーみたいでカッコいいんだけど(笑)、これがほとんど聞き取れない。

青山:あ、そうなんですか。

山登:お母さんに聞くとね、歌は上手に歌うんだけど、文章だと歌みたいにリズムがないから読み難いんだって。本人がそう言ってるらしいです。

青山:なるほど、なんかわかるような…

山登:あとね、講演会ではフロアの質問なんかにも答えるんだけど、このときはお手製の文字盤というのを使う。

青山:文字盤?

山登:ボール紙にアルファベットを一字一字、キイボードの配列どおり書いてある。この字を指で押さえながら、一語一語、言葉を話すんです。そうしないと、頭に単語が浮かばないんだって。

青山:不思議ですね。

山登:われわれは、たとえば「キュウリ」って言おうとすると、あの野菜のイメージとキュウリって言葉が、意識しなくても一瞬のうちに浮かぶじゃない、同時に。で、これも言おうと思った瞬間に言えるよね、「キュウリ」って。でも、東田くんはそうじゃなくて、言いたいことがあっても、言葉に変換して口にするのが難しいらしい。文字盤を見ながら、「うーんと、キ?K?…キ?」とKを指さすと、「そうだ、キュウリだな、キ」と出てきて、そのあとは、「ュ、ウ、リ」みたいに続いて出てくるらしい。

青山:うわあ、面白い! でも、それじゃあひと言言うにも、すごく時間がかかっちゃいますね。

山登:そうそう、こっちも一字一字ノートに書きつけて文章にしないと、何を言っているかわからない。でも、東田くんが「オワリ!」って発言を終えたときに見返すと、これが無駄のないしっかりした回答になっているの。

青山:うわー、ますます不思議! 見てみたいです。

山登:ぜひ、東田くんのライブを見に行ってください。「この人を見よ!」ですよ、まさに。

■ 東田直樹くんに教わったこと

「発達障害のおはなし」 山登敬之氏、青山カウンセラー対談山登:東田くんのような人は、アウトプット、つまり言葉や表情がないから何を考えているかわからないし、知能検査にもうまく答えられないだろうから、従来の概念からすると重度の知能障害とされてしまうでしょう。だけど、インプットはちゃんとあるんだよね。

青山:理解もしているし。

山登:そう。理解もしているし、いろんなことを考えてもいるけど、身体が言う事をきかないし言葉はしゃべれないしで、重度の知能障害とみなされてしまう。そういうふうに自分の体に閉じ込められている人たちが、実は東田くん以外にもいっぱいいるんじゃないかなって思うんですよ。
だから、東田君を知ってから、僕も自分の患者さんに対して「この人わかっているんじゃないかな」って、より考えるようになって。もちろん、これまでも失礼のないようにしてきたつもりだけど、目の前の自閉症の、あるいは知的障害といわれている人たちには、なおさら「失礼のないようにしないと」という意識が働くようになったね。

青山:対等な関係性みたいな…

山登:だからね、その「対等な関係性」っていうのも、口で言うほど易しくない。どうしても見た目で判断するっていうか、そういう風に接してしまうから。
言葉の出ない自閉症や知的障害の人、あるいは認知症のお年寄りを相手にするときなんか、思わず小さな子どもを相手するような態度になっちゃうでしょう。それはそれで理由があることなんだけどね。

青山:そうでしょうね、おそらく。

山登:まあ、そういうところで、僕も自閉症観が変わりましたね、ちょっと。コミュニケーション能力の障害があるのも確かだし、こだわりが強いっていうのも確かなんだけど、できなくてもわかってるというところまでは、認識が足りなかった。
東田君も、自閉症だから人の気持ちがわからないみたいに思われることに対して、すごく怒るわけですよ。もっともだと思いますけど。貧しい国の子どもたちが餓えや病気で毎日死んでいくニュースを見たり聞いたりすると、たまらない気持ちになる、というようなことを言うわけだから…

青山:そういう気持ちは十分に備わっているわけですよね。

山登:そういうことです。でも、僕のところに来る高校生なんかで、自分には「好き」って感情はあるけど「同情」とか「共感」という気持ちはないから、発達障害なんじゃないか…なんて言う子もいるよ。だから、全部ひっくるめて同じには言えないんだけど…

青山:要注意じゃないけれど、大人たちがそのへんのことを知っているか知っていないかで変わってくるでしょうね。

山登:そうですね。まあ、実際はわかっている人もいっぱいいるけどね。自閉症の子を横にして、「この子はしゃべれないけど、なんでもわかってるんですよ」っていう親は昔からいたから。「自分の事を話されるとイヤがるんです」って。
自分のことを話されているというのもわかるし、出てくる話題は、ここがみんなと違うとか、ここができないとかいう話になっちゃうわけだから、横で聞いているのがすごくイヤみたいっておっしゃる親御さんもいるんですよ。
だから、そういうことは、東田君の登場までに全然知らなかったわけじゃないけど、あらためて考えさせられたっていう話ね。

青山:感動…ですよね。

(つづく)

東田直樹公式ブログ : http://higashida999.blog77.fc2.com/

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