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役に立つ心理学コラム「薬物依存−3・・依存からの回復」

薬物依存−3・・依存からの回復

アルコールや薬物に依存している人達に対するセラピーにかかわっていると、多くの人達が、最初は、「依存が病気である」とは全く認識していない事に気づきます。

彼等の多くは、「覚せい剤をやって、気持良くなって、なにが悪い!」あるいは、「薬をやらないと、つらくてやっていけない」という気持を持っていて、本心は薬物をやめる気は無いのですが、裁判所のオーダーや、会社の上司からの命令で、いやいやながらセラピーにやって来るのです。

アルコールや薬物の依存症になって「悪い」事は、たくさんあります。まず、脳の損傷です。

僕も、何度かSPECTという方法で撮った脳の3−D画像を見た事がありますが、その画像を見ると、依存者達の脳の損傷はかなりの損傷を受けている事が、一目瞭然で分かります。

正常な脳は新陳代謝と血液の流れが健全なので、その画像は非常になめらかできれいなのですが、依存者達の脳は、穴ぼこだらけに見えます。穴ぼこの様に見える所は、本来の機能を失っている部分です。このため、長年アルコールや薬物に依存していた人達は、記憶障害等の症状を起こします。

また、精神的問題、例えば、薬物をとっていない時、気分が落ち込んだり、不眠になったり、不安や疲労感を感じたりする現象が起きます。また、フラッシュバックといって幻覚症状が出る事もしばしばあります。

脳の損傷や精神的問題だけではなく、薬物依存により、クライアントの生命自体も危険にさらされます。

薬物を定期的にとっていると、耐性といわれる、薬物に対する抵抗性が変化してきます。耐性とは、同じ効果を得るために、次第に多量の薬物が必要になってくる現象です。

ところが、薬物による致死量は、ほとんど変化しないのです。すなわち、長い事薬物をとっていると、効果の出る(気分の良くなる)量と、致死量の間にあまり差が無くなってきます。つまり、ちょっとした摂取量の間違いによって、死に至ってしまう可能性があるのです。

こうした現象は、たいていの場合薬物をやめれば回復するのですが(脳の損傷もよっぽどひどい状況でなければ回復します)、それをじゃまするのが、クレイビング(薬物に対する渇望)です。クレイビングは、さまざまなきっかけによって引き起こされます。

例えば、映画でビールを飲むシーンを見た時、バーの前を通った時等の外的要因によってクレイビングが起こる時があるし、また、気分が落ち込んだ、イライラしている等の内的な要因によっても引き起こされます。

クレイビングは非常に強力で、それを押さえる事は非常に難しく、なんのサポートシステムが無い人の場合、クレイビングを感じたら、もう薬物以外の事を考える事ができなくなり、そのまま薬物を買いにいってしまう例も多くあります。

薬物をやめた直後の人に対する治療は、このクレイビングとの戦いと言っても良いでしょう。クレイビングは、ひとりで押さえる事は難しく、セラピストを含む他人のサポートが必要です。

僕がインターンとして働いていた「オリョーフ・アウトペイシェント・プログラム」では、こういった人達に対し、最初は「行動パターンを変える」事に焦点をあてたアプローチをします。

基本的には、以下の様な、統合的な13週間のプログラムが組まれます。

1.個人セラピー:週1回〜2回
2.グループセラピー:週1回
3.エジュケーション・グループ(薬物依存に関するレクチャー):週1回
4.家族・カップルセラピー:週2回〜5回 (必要に応じて)
5.12ステップ・ミーティングへの参加:週3回〜7回
6.尿検査:週1回
7.栄養士によるカウンセリング:週1回

個人セラピー、グループセラピー、家族・カップルセラピーでは、行動パターンの変更(薬物から距離を置いた生活への変更)、クライアントの内的問題、人間関係等に焦点が当てられます。ここでは、セラピストに何でも相談できる状況を作る事が大切です。

エデュケーショングループにおいては、薬物依存に関するさまざまなレクチャーを受けます。
栄養士によるカウンセリングにおいては、気分を安定させるための適切な食生活等について、アドバイスが得られます。

また、外部の12ステップ・ミーティングへの参加も義務付けられていて、12ステップに対する理解を深めると共に、ミーティングのメンバーからのサポートを受けられる様にします。

尿検査は、週1回ぬき打ちで行われ、検査結果で、薬物をとった事がわかると、10週間のトリートメントが追加されます。

非常にタイトなスケジュールですが、薬物依存のトリートメントの初期には、「薬物から距離を置く」習慣をつけるためには、この位の忙しさが必要なのです。

こうしたプログラムの中で、クライアントは次第にその生活を薬物依存から、健全な生活へと軌道修正して行きます。ただし、この様な徹底したプログラムでも、うまく行かない場合もあり、その様なケースは、入院治療が
必要です。

「オリョーフ・アウトペイシェント・プログラム」では、一応13週間で集中プログラムを終了しますが、その後は状況に応じて必要なプログラムを継続します。たいていの場合、個人セラピー、12ステップへの参加(最低週1回)は、最低限継続されます。

この段階で、セラピーの焦点は「行動パターンを変える」事から、次第に「個人の内面」の問題へと移って行きます。トラウマに直面するのはこの時期で、これまで押さえられてきた感情の表出等が起こってきます。

ただし、ここで、セラピストが気を付けなければいけないのは、プロセスをあまり急ぎすぎない事です。

あまりに急激にこころの深い部分にある傷に接した場合、クライアントはその対処の仕方がわからず、結局、薬物に救いを求めてしまう事が、よくあるのです。

トラウマとの対面は、とてもつらい事です。また、そのつらさから逃れる事が、薬物依存の一つの側面です。ですから、どんなに“良い”アプローチをしても、時には、クライアントがリラプス(再び薬物をとる事)してしまう事もあります。

リラプスが無い事にこした事は無いのですが、リラプスが全く無しで回復するという事は、誘惑の多いサンフランシスコでは、非常に難しいのが現状です。

そういった場合、セラピストは、クライアントが、リラプスに対し強い「罪」や「恥」の意識を持っている事を理解する必要があると思います。

僕の場合、「リラプスしたからといって、すべてが終わりになってしまった訳ではなく、また回復のためのプロセスを開始する事ができる事」を強調し、「リラプスから学んだ事」に焦点を当てたアプローチをします。

僕は、「リラプスは、回復のプロセスの一部である」と考えています。リラプスを通して、クライアントが持つ、根源的な問題が明らかになってくるといった側面もあるのです。

もちろん、だからといってリラプスを奨励しては本末転倒で、クライアントに対し「リラプスの危険性」を充分に再認識させる事を忘れてはいけません。
しかし、「罪」や「恥」の意識をそのままにしてしまったら、その意識が、次のリラプスの引き金になってしまう場合もあるのです。

治療する側にしても、クライアントにしても、リラプスは残念な事なのですが、「転んでも、ただでは起きない」アプローチが
必要だと考えています。

「薬物のない生活習慣」が身につき、「内面の問題」の整理がある程度できてくると、回復へのプロセスは、だいぶ安定した段階になってきます。
この段階まで来たら、次は、クライアントの「スピリチュアルな成長」に、焦点が当てられていきます。

アルコールや薬物への依存の根底には、スピリチュアルな欲求、すなわち「自己実現への欲求」から、禅でいう「悟りの境地に達しようとする欲求」があるといわれています。
セラピストとクライアントは、「人生の意味」、「生と死」といった実存的なテーマについてワークする事になります。

以上見てきたように、薬物依存のトリートメントには「行動パターンを変える」、「内的問題の理解、解決」、そして「スピリチュアルな成長」といった3つの段階があります。

こうしたプロセスを経て、薬物依存といった精神的危機は「自己実現」、さらには「スピリチュアルな成長」へと転じて行きます。

そこまで至るには紆余曲折があったりして、長い道のりになる場合もありますが、薬物依存を克服した後には、希望があるのです。

(向後善之)

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