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役に立つ心理学コラム「最初の冒険(その2)」
最初の冒険(その2)
「次の駅で降りて、ひき返そうか」と考え始めるようになり、ひとつの駅に着いたとき、ついに、僕は降りる準備をしてドアのところまで行きました。そこは大きな駅で、どこか見覚えのある駅でした。武蔵小杉の駅でした。武蔵小杉には、昼によく来たことがあったのですが、夜の駅は、様子が違いました。そこが武蔵小杉駅であるとは確信はできなかったのですが、僕は、電車にとどまることにしました。武蔵小杉であれば、家に向かっている事になるのです。それからは、もはや座っていることができなくなりました。ドアのところに立って、外を眺め、必死の思いでどこかに見覚えのある景色はないか探しました。やがて、民家の数が増え、見覚えのある小さな川とそのそばの踏切を見つけました。
僕は、「まちがいない、まちがいない」と心の中で叫びました。そして、僕の家がある鹿島田の駅についたとたん、僕は走り始めました。早く家に帰りたかったのです。僕の記憶では、改札口に父と母と弟が待っていました。僕は、その姿を見つけると、走るのをやめました。息ははずんでいるのですが、なにごともなかったようにすまして改札で駅員さんに切符をわたしました。自分があせっていた事に気づかれたくなかったのです。母が、僕に「だいじょうぶだった?」と聞いてきたと思います。僕は、「こんなの、へっちゃらだよ」と答えた事を覚えています。ぜんぜん「へっちゃら」ではなかったのですが・・・。 僕の中では、鹿島田の改札口の明かりの中で待っていてくれた父と母と弟の姿が、とても幸せなシーンとして残っています。その後の人生は、順風満帆とはいかなかったし、トータルすると失敗した冒険の方が多いと思うのですが、このときの記憶は、今でも僕を元気づけます。