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役に立つ心理学コラム「3人の白雪姫」

3人の白雪姫

ある年の正月の事でしたが、私の友人が奥さんとまだ幼稚園の娘さんをつれて、我が家を訪ねてきました。かつては、冗談ばかり言っていた彼も、今ではすっかり良いお父さんです。なつかしくもあり、感慨深くもありました。その彼が、愛娘のAちゃんの映っているビデオを見せてくれました。そこには、幼稚園の学芸会で、主役の白雪姫を演じているかわいいAちゃんがいました。
「おー主役か!たいしたもんだ」等と言いながらビデオを見ていると画面が変わり、やはり白雪姫のストーリーは続いていたのですが、どうも白雪姫の顔が違います。「あれれ?」と思っていると、画面は再び変わり、今度は、白雪姫の衣装を着た少女が3人で歌を歌っているのです。よく見ると、他の登場人物も1人ではありません。それぞれ同じ役が同じ衣装を着ていっしょに歌を歌っているのです。さらには、白雪姫や狼に化けた悪いおばあさんがそれぞれ3人ずつ一緒に出てきて、同じセリフを言う場面までありました。最後には、すべての登場人物が3人ずつ現れ、ステージを走り回るという大騒ぎになりました。これでは、ストーリーもなにもあったものではありません。

友人と友人の奥さんによれば、今幼稚園はたいていこんな状態なのだそうです。主役がひとりだと、主役になれなかった子供がかわいそうだからという理由だそうです。逆に悪役は悪役で、やはりひとりだとかわいそうだとの事なのでしょう。さらに、親からの「なんでうちの子が主役じゃないの?」、「なんでうちの子が悪役なの?」といったクレームを緩和する効果をねらっている側面もありそうです。

こうした「みんな平等」の方針は、学芸会以外の行事にもしっかり反映され、ある学校では、運動会のメインイベントである徒競走では、1位の人がテープを切るのではなく、早くゴールに到達した生徒は、その場で駆け足足踏みをしながらビリの生徒が到着するのを待って、みんなで手をつないでテープを切るという話でした。

その話を聞いて、私は、「ムムム・・・」とうなってしまいました。「みんな平等」で、みんなが同じ様に喜び、不満もないのでしょう。そこには、「主役になれなかった」とか、「徒競走で速く走れなかった」というくやしさもないし、主役をやったり徒競走で1番になったクラスメートに対する羨望とやきもちが交錯したような感情も感じないですむのでしょう。

しかし、これが私達が望む理想の世界なのでしょうか?

この幼稚園のような「みんな平等」な世界では、不満は少ないのかもしれませんが、感動も少なく、振れ幅の少ない平坦な世界になってしまいます。世の中には、足の速い人も、遅い人も、主役になる人も、脇役になる人もいます。その中で、人は、自分に変えられないものを受け入れる強さと、変えられるものは変えていこうとする勇気を得ていき、その中から世界でたったひとつしかない自分の人生を作り上げていきます。

平坦な世界では、痛みも感じる事もなく、そのかわり感動もありません。痛みを感じた経験がないのなら、他人の痛みを共感的に理解する事もできません。そして、いざ自分が苦境にたたされた時、痛みに対する耐性がありませんから、その苦境を乗り越える勇気もなく、また、苦境を乗り越えた経験が無ければ、事態を打開する智恵も浮かびません。そして、振れ幅の無い平坦な世界は恐ろしく退屈で、明確な理由もなく、人々は欲求不満になる事でしょう。しかし、そうした不満をぶつける対象がありません。なにしろ、平坦な世界は、みんなが傷つかないような正しい世界なはずなのですから。

戦後のある時期から、日本は、平坦な世界への道を歩み始めた様に思えます。1億総中流意識等と言われた時期がありますが、まさにその時、平等さとともに平坦な世界が実現したと言えるでしょう。高等教育を国民の90%以上が受け、終身雇用制の元、みんながほぼ一緒に昇進し、同じ会社の中では給料の差はほとんどない世界が実現し、ついには、「Japan as No.1」とまで世界からたたえられるようになりました。しかし、それとともに、日々の生活から感動は失われていきました。現在、バブルが崩壊してから15年以上の年月がたち、終身雇用制は崩壊しつつあり、平坦な世界は根底からくつがえされつつあります。ところが、教育の現場では、今でも一生懸命平坦な世界を作り出そうとしている様に見えます。

近年、若年層のみならず中高年層にいたるまで、以前では考えられなかったような残虐な犯罪、例えば、オウム真理教による地下鉄サリン事件をはじめとする一連の事件、10代の若者による殺人事件、その他数々の無差別殺人が起こっています。また、いじめのエスカレートなども近年の特徴です。これらの事件には、他人の痛みに対する共感的理解の欠如が認められます。そして、共感が育たない原因のひとつには、痛みも感動も生まない平坦な世界があると、私は思います。

平成9年に起きた神戸の児童連続殺傷事件で殺人を犯した当時14歳の少年は、自分の事を「透明な自分」と表現しました。そして、当時報道された彼自身の文書の中で、「ちょうど、蝋で作ったバラのつぼみや、プラスチックで出来た桃の方が、実物は不完全な形であったのに、俺たちの目にはより完璧に見え、バラのつぼみや桃はこういう風でなければならないと俺たちが思い込んでいる」と、自らの心象を描きました。これらの表現は、平坦な世界で生きる者の苦悩を如実に示すものだと思います。今の社会は、蝋で作ったバラや、プラスチックで出来た桃を、あたかも本物であるかのごとく子供達に教え込んでいるのかもしれません。

そして、平成15年7月9日に起きた12歳の少年による残忍な幼児誘拐殺人事件の背景には、感動も、痛みも、悲しみも、喜びすらも感じさせない、その結果、共感という人間の最も優れた資質を育てない無味乾燥な平坦な世界があるような気がしてなりませんでした。


(向後善之)

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