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役に立つ心理学コラム「ナルシスティック・エクステンション」

ナルシスティック・エクステンション

前回、人間「適度に不完全」な方がいいという事を書きました。しかし、世の中には、あるはずのない完璧にしがみついている人達も多い事も事実です。そういう人たちは、例えば親−子の関係で言えば、「親」という役目を完璧に果たそうとするあまり、「自分は親として子育てに失敗してはいけない」、あるいは「自分は親であるから失敗しないはずだ」という観念にしばられてしまっています。

この(妄想的な)完璧信仰は、子供の成長のきっかけとなるはずの、せっかくの「親の失敗」のチャンスを奪ってしまいます。簡単に言えば、「失敗したらそれを認め、他者を傷つけたのなら、そのこころの傷を共感的に理解すればよい」のですが、彼らの辞書には失敗はありえず、したがって、けっして自分の失敗を認めようとしません。
本来育児・教育上どこかで失敗するはずの親が外見上失敗しないためには、子供の認識を歪め、親が失敗したにもかかわらず、子供に「これが、僕(私)の望んでいたことだ」と思い込ませる操作が必要です。その例が、コラム第6話「『私』の喪失」で示した、ダブルバインドやミスティフィケーションです。

こうした微細な介入は、外からは、親による「完璧な」対応あるいは完璧な親子関係と写りがちですが、実は子供には重大な精神的影響を与えます。
完璧な(完璧と思い込んでいる)親たちは、子供がまだ望んでいないにもかかわらず、完璧に子供が望むであろう行為を実行に移そうとします。ところが実際は、子供の欲求と親の行為が完全に一致していない事が多く、それが完全に見えるのは、どこかに不完全を完全に見せる操作が、親の側にあるからなのです。こうしたみせかけの完璧な母親(父親)の下で育った子供達には、以下の2つの選択肢のいずれかの方策しか残されていません。
ひとつは、母親(父親)との合体の状態を永遠に続ける、もうひとつの選択肢は、(一見良い母親(父親)に見える)その母親(父親)を全面的に否定する態度をとり続ける事です(文献1、P.51)。

こうしたみせかけの良い親には、ふたつの要素があります。
ひとつは、完璧さへの執着であり、もうひとつは、親−子の境界のあいまいさです。
彼らにとっては、自分の行為は完璧であり(完璧さへの執着)、そして、自分の延長である子供は、自分の行為に100%満足しているはずと認識する(境界のあいまいさ)のです。このような状態は、ナルシスティック・エクステンションと呼ばれます。ナルシスティック・エクステンションとは、以前お話したように(コラム第6話「『私』の喪失」)、本来自らの自己愛的な欲求を、他人(多くの場合子供)を代役として実現しようとする傾向を示します。

ナルシスティック・エクステンションに支配されている親達は、子供の事をなんでもわかっているという自信に満ち(例えば:カウンセリングルームでのセラピストからの子供に対する質問を、常に親が代わりに答えてしまう等)、子供の進路に対する明確なランキング・システムが存在し(文献2、P.173)、子供の達成したゴール(一見、子供自身が設定したゴールに見えても、実は親が設定したゴールである事が多い)に同一化しがちで、逆に、子供が自分の設定したゴールに達さなかった時、子供以上にがっかりしたりします。

こうしたナルシスティック・エクステンションが数多く認められたのは、第2次世界大戦中のナチスからの迫害から生還したユダヤ人の家族においてです(文献3)。戦時中、ヨーロッパのユダヤ人達は、アウシュビッツの強制収容所他での大量殺戮に代表される歴史上の最大の悲劇というべき迫害を受けました。ユダヤ人達は、ナチスによる迫害の前、自分の人生に対する夢も希望も持っていました。しかし、それらの多くは、容赦のない迫害により奪われてしまいまったのです。彼らの中に、「もし、ナチスによる迫害がなければ」という思いが強く残ったのもしかたのない事です。彼らは、その失われた夢や希望を自分の子供達が実現してくれる事を(無意識的に)望みました。彼らは、子供達に言いました。「私達の時代は、悲惨だった。夢も希望も奪われてしまった。だけど、あなたたちには自由がある。夢も希望もかなえる事ができる。」と。

ところが、これが、次世代のユダヤ人達にとって大きなプレッシャーになりました。子供達は、現在は以前と違い「自由な世の中」であるのだから、夢や希望を実現しなければならないと、強迫的に思いこまされてしまったのです。そして、その夢や希望は、実は、自分自身のものではなく、親のものだったのです。こうして、ナチスによる迫害の経験が、ユダヤ人の生還者にナルシスティック・エクステンションを広める大きな因子となりました。

私は、日本でも戦後のユダヤ人達と同様の事が起こっていると考えます。戦争により、日本人達も、家族の命や財産を奪われました。そして、敗戦とともに戦前の価値観は全く否定され、その後の混乱期を経て高度成長期に向かっていった時、人々は戦前戦中とは正反対の自由な明るい未来を期待しました。新しい時代を向かえ、親達が子供に過度な期待をしてしまったのも無理のない事かもしれません。しかし、それが日本におけるナルシスティック・エクステンションの土壌を生みました。

不幸な事に、ナルシスティック・エクステンションは世代間に継承される傾向を持ちます。親のナルシスティックな要求を実現できる子供はそれほど多くなく、さらに、右上がりによくなった日本の経済成長を見て、人々が「次の世代はもっと良い世の中になるはずだ」と信じるのは当然の事で、そのため、子供へ「自分(親)が実現できなかった」夢や希望を過度に託してしまう状況ができあがってしまいました。

しかし、それは、次世代の子供達をより苦しめていく事になりました。親からのナルシスティックな期待が大きすぎて、また、その期待が「次の世代はもっと良い世の中になるはずだ」との共通理解によって正当化される事によって、次世代の子供達が適切な自己決定力、あるいは自己志向性を育てる事ができなくなり、思春期から青年期にかけての最も重要な課題である自我同一性の達成が困難になってきてしまいました。

その結果が、自分の生きる方向を見出せないフリーターやひきこもりの増加や、外界の価値観に自己を同一化させ、多様性を否定する傾向を基盤とするいじめの横行となって表れてきていると言えるでしょう。この傾向にどこかで「待った」をかけなければなりません。そして、右肩上がりの経済成長が終わってしまった今が、戦後のナルシスティック・エクステンションの連鎖を断ち切るチャンスなのかもしれません。

(文献1)ウィニコット、D.(1977)、「情緒発達の精神分析理論」、岩崎学術出版社
(文献2)McWilliams, N. (1994). Psychoanalytic Diagnosis., Guilford, NY
(文献3)Wolfenstein, M. (1951). The emergence of fun morality, Journal of Social Issues, 7, PP.15-24.


(向後善之)

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