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役に立つ心理学コラム「ほぼ良い母親(父親)のすすめ」

ほぼ良い母親(父親)のすすめ

私は、時々主婦の方対象のワークショップを開きます。そうした場で驚くのは、みなさんの育児・教育に関する知識の豊富さです。心理学のむずかしい専門用語が突然出てきたりして、時々面食らいます。おそらく、たくさんの育児や教育に関する本を読まれてきたのでしょう。

ただ、その知識の豊富さが、時にお母さん達をがんじがらめにしている様に見受けられます。多くのお母さん達が、「親が支配的になりすぎないように適切な躾を行い」ながら、なおかつ「子供達の自主性を尊重」し、「個性
を重ん」じる事を心がけるという神業的な子育てを行っています。このため、昔であればごく普通の行動であった「子供が悪い事をしたら、しかる」という単純な行為においても、いちいち「こういう時は、こういう言い方はしてはいけないんだっけ」等と考えたりする人達もおられます。

かつて、行動心理学の創設者のひとりであるワトソンという心理学者が、1928年に出した育児書の中で、「子供を抱いたり、子供にキスをしたりしてはいけない。子供を膝の上に坐らせてはいけない。もし、そんな必要があるのなら、子供がおやすみなさいをいう時に、額に一度だけキスをしなさい。朝、子供と握手をしなさい。(文献1)」と書いています。現代からみれば、なんと窮屈な親子関係だと思われますが、その当時は、革新的な育児法として一時期もてはやされたそうです。

またワトソンは、こうも言っています。「私に1ダースの健康でよく育った乳児と、彼らを養育するための私自身が自由にできる環境を与えてほしい。そうすれば、そのうちのひとりを無作為に取り上げて訓練し、私が選ぶどのような型の専門家にでも育てる事を保障しよう。その才能・好み・傾向・適性・先祖の民族に関係なしに、医者・法律家・芸術家・大商人、そう、乞食やどろぼうにさえも―(文献2、P.16)」

彼は、完璧な育児法を主張したのです。しかし、彼の育児法は、実際にはうまくいきませんでした。ワトソン的な育児手法を採用したある心理学者の子供が、神童と呼ばれ、少年期に超一流大学に進学したものの、結局意欲を失いホームレスになってしまった例もあるとの事です。やがて彼の極端な考え方は、人間性の冒涜だとして批判され、現在ではワトソン博士の育児法の熱心な信奉者は、ほとんどいないといっていいでしょう。(ワトソンは、確かに極端で過激でしたが、心理学に大きな貢献をしたのは事実です。行動心理学は、ワトソンの時代から70年たった今、当時の過激さは影をひそめています。また、行動だけでなく、人間の認知の能力に注目した認知行動学派も生まれ、臨床の現場で広く適用されています。)

ワトソンがめざした様な完璧な育児・教育法も存在しないし、育児や教育を完璧に実践できる親はいません。人間は、残念ながら(あるいは、幸いにも!)不完全な存在であるらしいのです。そして、近年では、親の不完全さこそが、子供を成長させるひとつの原動力となっているという考え方が主流になっています。

イギリスのウィニコットという精神科医が、1950年代後半から60年代にかけて、完璧な母親ではなく「ほぼ良い母親(Good Enough Mother)」(文献3)が、子供の成長にとっては最も適切であると主張し始めました。
「ほぼ良い母親」とは、「育児に自然に没頭でき、十分に子供を『抱っこ』し、子供が成長していくにつれて、うまく手を抜いていくような母親」の事です(文献4)。

ウィニコットによれば、幼児は母親への絶対的依存から相対的依存を経て、独立へ進みますが、その段階で母親の失敗(幼児の希望に100%答えられない事)が必要だというのです。いわゆる共生期(生後2ヶ月〜6ヶ月:文献4)においては、外部からは幼児と母親は一体であるかの様に見え、すなわち、幼児の欲求と母親の対応の間には、ほとんど矛盾が無いのです。ところが、遅かれ早かれ、母親が子供の欲求に完璧に答えられない時が来ます。お腹がすいているのに、母親がそばにいない・・・。この母親のささやかな失敗が、子供に自分の中の力を悟らせます。

最初のうち母親が帰ってくるまで泣き続ける子供も、やがて母親がいずれ帰ってくる事を確信するようになり、その帰ってくるまでの間を平静にすごす事ができるようになります。泣かなくなった子供のこころの中には、自分を救ってくれる母親のイメージが存在し続けてるのです(Going-on-being,文献3、P.98)。やがて、子供は存在し続けた母親のイメージを自分の中に取り込んでいく、すなわち、母親の能力を自分のものにしていきます。こうして子供は、母親がいなくても待っている事のできる自分を発見するのです。そして、これが、独立した自我を形成する第一歩になります。

この時、母親に必要なのは、泣かないでがんばってきた子供に対する共感です。おなかがすいたのに母親がそこにいない事は、子供にとって小さなこころの傷(トラウマ)になるかもしれません。しかし、そのトラウマは、母親が子供の不安やその不安を耐えたがんばりに共感する事により癒され、その結果が子供の成長につながっていきます。

私は、このトラウマ+(他人からの)共感のサイクルが、幼児期だけでなくその後の人生においても、人間の精神的成長にずっと寄与していくものと考えます。人間は不完全なものですから、失敗は不可欠です。どんなに完璧にやろうとしても、いつかは失敗します。しかし、その失敗によってできたこころの傷は、修復可能であるばかりでなく、他者からの共感によりその傷を克服する事によって、精神的な成長がなされます。

母親の子供に対するケアの過度の強調が、母親の不全感や劣等感を強めていると指摘した、ヴァン・デン・ベルクは、「当然だと思える事をおやりなさい」「それらの事を、ごく自然だと思える普通の仕方でおやりなさい」(文献6)と言っています。育児や教育が完璧じゃなくていいのです。・・・と言うより、完璧はもともと不可能なのであり、子供に対して共感する事ができるのなら、親の失敗は逆に子供の成長に寄与するのです。

(文献1)Watson, J.B.(1928), Psychological Care of Infant and Child, NY:Norton
(文献2)「心理学」(1966)、鹿取廣人・杉本敏夫編、東京大学出版
(文献3)ウィニコット、D.(1977)、「情緒発達の精神分析理論」、岩崎学術出版社
(文献4)「カウンセリング辞典」(1990)、国分康孝編、誠信書房
(文献5)Grolnick, S. A. (1990)、 “Work & Play of Winnicott,” NY: Aronson
(文献6)「疑わしき母性愛」、バン・デン・ベルク著、川島書店、1997年


(向後善之)

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