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今日の心理学用語バックナンバー <か>

外因好発型 (Exogenous predilection type)
ドイツの精神科医ボンヘッファー(K. Bonhoeffer)の用語で、外因反応型と同義である。ボンヘッファーは症状精神病がさまざまな病因によって起こるにもかかわらず、特定のいくつかの症状が好発することに注目し、それを外因反応型(あるいは外因精神反応型)と呼び、後年これを外因好発型と呼んだ。
これに属する症状としては、せん妄・もうろう状態・アメンチア・幻覚症・過敏性情動衰弱状態・コルサコフ症候群がある。

外因精神病 (Exogenous psychosis)
外因とは、身体的原因すなわち脳に直接侵襲を及ぼす炎症・外傷・腫瘍・中毒・急性伝染病・代謝障害・栄養障害・心臓疾患・肝臓疾患・内分泌異常・生殖機転などをいうが、広くとらえれば環境的原因や精神的原因までも外因に含まれる。 いずれにしても外因と精神症状は直接に結び付くわけではなく、中間にもともとの体質などを考えねばならない。特に環境的原因や精神的原因によって精神症状が発現する場合には、個体の素質的な因子がより大きく作用し病像形成を複雑にして いるので、通常それらは心因性精神障害として別に考える。
身体的原因のうち、脳の一時的な侵襲によるものは器質精神病、諸種の薬物の中毒によるものは中毒精神病、その他の身体疾患を基礎として起こるものは症状精神病として分類される。

絵画療法 (Art therapy)
絵画療法は広義の芸術療法の中で精神療法的アプローチとして主要な位置を占めている。絵画療法は、諸種の精神・心理学的学説を理論的基礎として援用しつつ、その表現された描画、あるいは絵画作品を治療的媒体として利用する精神療法的アプローチの1つとみなすことができる。
主として精神神経科領域の患者が対象として適応されているが、心身障害児や核年齢層における長期療養者のレクリエーション療法的ならびにリハビリテーション療法的治療としても応用されている。
絵画療法では導入法も治療技法として重要である。これに関しては(a)なぐり描き法 (b)交互なぐり描き法 (c)風景構成法 (d)家・木・人法 (e)誘発線法 (f)自由画・課題画法など多数のものがある。なお個人・勇断絵画療法の分野がある。

快感原則 (Pleasure principle)
フロイト(S. Freud)が「現実原則」とともに仮定した、精神機能を支配する基本原則の1つで、「快・不快原則」、「快・苦痛原則」などとも呼ばれる。
一般的に不快を避け、快を求める原則とみなされているが、フロイトは、エネルギー経済論的見地(エネルギー恒存の法則)から、不快とは、欲動すなわちリビドーの緊張が高まっているのに、その緊張が解放される心的状態であり、快とは、この緊張解放の心的過程であるという。
またシュール(M. Schur)は「快感原則」と「不快原則」を区別し、彼の説によると、前者は、一定の充足の対象を求める欲求を支配するものであって、すでに何らかの欲求充足の全体的状況に関する快の記憶を再現しようとする願望に従っているのに対して、後者は、過剰な内外の刺激によって生ずる生体の均衡の動揺を解消する原則であって、前者よりも発達的にみて、より原始的な原則であるという。

開業精神療法 (Psychotherapy in private practice)
精神療法を開業という治療場面で行うこと。ある程度実証的な理論によって裏付けられた開業精神療法を初めて行ったのは、19世紀のフロイト(S. Freud)やブロイアー(J. Breuer)である。
開業という治療場面では、安定した治療環境を提供しやすく、治療関係も理解しやすい反面、精神療法家の力量と治療場面の限界が絶えず問われる。現実的には、診療所や病院などとの連携の上に開業精神療法は成り立っているといってよい。特に、行動化の激しい患者や病態の重い患者の治療には、そうした連携は不可欠である。
料金は自費(自由診療)であることが多く、そのことに治療的な意味がある。だが、欧米では充分ではないにせよ保険によって補充されることが少なくなく、わが国でも保険制度の導入が検討課題となっている。

外向 (Extraversion)
ユング(C. G. Jung)は人間の基本的態度に2つのタイプがあることを認め、外向および内向と呼んだ。これは人間の関心あるいはリビドーの動く方向によって区別したもので、リビドーや関心が外界へと向かうのが外向であり、内界に向かうのが内向である。この両傾向が神経症の症状として典型的にみられるのは、外向性の場合がヒステリーであり、内向性の場合が神経衰弱であると考えた。
外向型の人は客体のもつ意義を非常に高く評価し、自分自身の根本的態度を、いつも客体を基準にして決定したり関係づけたりする。外向型の人は社交的であるが、他人との関係が過剰となり、他人の注意をひきつけようとする傾向が強くなりすぎるとヒステリーにちかくなると考えられる。

下意識 (Subconsciousness)
フロイト(S. Freud)が、無意識・前意識などの概念を整理する過程で、一度思いついたものの、その後使用されるには至らなかった用語。
フロイトは『無意識について』の論文[1915]で意識・前意識・無意識を区別したが、その中で、意識されない心理作用の存在について、「下意識という名称は、不正確で誤解しやすいものとして、退けて良いだろう」と述べている。

解釈 (Interpretaion)
治療者が治療過程において患者の精神生活について理解したことを言葉で患者に伝え、患者の自己理解を助け、促すという精神分析の中心的治療のこと。 患者が述べた記憶・空想・願望・恐れなどから精神的葛藤を理解し、意識的・前意識的領域のことに関しては明確化や直面化という技法をとり、その上で、無意識的領域へ踏み込んでの理解を言葉で表現するのが解釈である。
解釈によって患者は新たな体験、すなわち「アハ体験」といわれる感情的安堵と多幸感に似た安心感を味わい、そうした感情的体験を伴った自己理解、すなわち情緒的洞察が得られる。正しい洞察は治療者によって与えられた解釈を受身的に鵜呑みにしたものではなく、患者しか知らない情報が生産され、それに基づいて自己理解が深化したものであらねばならない。 そのためには同質の解釈作業が繰り返し行われるが、これを徹底操作という。

解釈妄想
セリュー(P. Serieux)とカプグラ(J. Capgras)が提唱したフランスの慢性系統妄想。特徴は(1)多様な妄想解釈を形成し、(2)幻覚を欠くか、あっても重要ではなく、(3)明晰性と精神活動性が保たれ、(4)解釈が進行拡散性に発展し、(5)不治ではあるが痴呆には至らない。妄想を生じやすいパラノイア体質の上に、出来事の誤った解釈が加わって生じるという。クレペリン(E. Kraepelin)の『精神医学書』8版のパラノイアにほぼ相当する。

外傷神経症
外傷に伴いその後遺症として起きてくるヒステリー・不安・心気・神経衰弱・抑うつなどの神経症をいう。その原因となる外傷としては、(1)頭部外傷や一酸化炭素中毒などの器質的ないしは生理的な侵襲、(2)心理社会的なストレスが考えられる。
外傷神経症をめぐっては、神経症症状が神経組織の微小分子の損傷に由来するという器質論的立場と、外傷時の驚愕反応や賠償に対する期待などを発症要因として重視する心因論的立場の2つの立場がある。

解除反応 (Abreaction)
カタルシスによって生じる治療的現象。除反応・発散・浄化などとも呼ばれる。過去の不快な心的外傷体験にもとづいて、無意識的に抑圧されている記憶や感情が意識化されたり、再現されたりして、心の緊張が解放されること。
意識的に抑圧されている内容が表現される場合は"告白"と呼ばれ一応区別して考えられるが、臨床的には同時に起こることが多い。
普通は言語を中心とした表現が多いが、身体的表出(流涙・身もだえ・その他の身体的反応や運動)を伴うこともしばしばある。この際、治療者は発散されてくる内容を批判したり評価したりすることなく、そのまま受容すること、また相手の自我状態を考慮してあまり一時的に表出させ過ぎないように注意する必要がある。

回心 (Conversion)
回心という言葉は、「向きを変える」「本来あるべき元の状態に帰る」という意味を持つ。回心の真正の意味は、これまでの自己中心的な生き方を悔い改め、神中心の生き方に変え、他者の必要に仕える生き方をするよう生活を根本から改めるところにある。神学的には、こうした回心は、神の超越的恩寵によってのみ可能になると考えられている。
回心は聖パウロのそれのように、一時的・劇的なものと考えられてきたが、最近では、それは漸進的かつ持続的なものであって、しかも全人格的なものであると考えられるようになった。したがって、回心に伴い、思考や行動の変化・情緒的成熟・倫理観の鋭敏さ・神と人への愛の強化などの成果が認められるものと考えられている。

解体 (Dissolution)
19世紀後半のイギリスの神経学者ジャクソン(J. H. Jackson)が、進化論哲学者スペンサー(H. Spencer)の説を神経症状の説明に適用して、「進化」とともに彼の『第一原理[1867]』から援用した基本的概念である。
ジャクソンによれば神経系の進化とは、最も単純な低次の中枢から、最も複雑な高次の中枢への移行であり、頂点をなすのが「精神の器官」または意識の身体的基盤である。解体とは進化の逆の過程だが、完全な解体(死)に至る途中の過程では解体は不完全で部分的であり、解体過程に応じて神経系の機能はある程度の進化の水準に留まるので、神経疾患の症状は二重の状態、すなわち解体水準に該当する陰性症状と、残された進化水準に該当する陽性症状を示す、すなわち神経疾患が生み出すのは陰性症状であって、陽性症状は残存神経活動の結果である。
例えば進行性筋委縮、てんかん発作、失語などは最も低次から高次の段階に到る神経系の局所性解体の例であり、精神病は最高次中枢の解体によるものである。錯覚・幻覚・妄想・異常行動は陽性症状であるが、解体の速度・解体を受ける人格状態・他の身体状態と外的な環境などの要因も症状形成に関係する。

回転ドア現象 (Revolving door phenomenon)
"回転ドア"の言葉が示すように、文字通り一部の精神障害者が短期間のうちに入・退院を繰り返す現象。
1952年向精神薬が導入されて以降、統合失調症患者の退院率が飛躍的に上昇したが、同時にこの退院者の再入院率が大幅に増加するという事態が生じた。 悪循環の原因として、当初は薬物療法の効果(退院率アップの要因)が確認される一方、患者側の一方的な服薬の減量や中断(再入院率アップを招く)が指摘されたが、現在ではこの"服薬上の問題"に加えて、治療者-患者関係の安定度、アフターケアの充実度、社会資源の活用度、家族内力動わけても感情表出が重視されている。

回避性パーソナリティ障害 (Avoidant personality disorder)
他の人から悪く評価されるのではないかという恐怖感を抱くなど、あらゆる対人関係場面で強い不安を感じやすく、そのために対人関係を回避しようとすることを特徴とするパーソナリティ障害。 しかし、閉じこもりながらも対人関係を持ちたいという気持ちは強く、その点で対人関係自体に無関心なシゾイドパーソナリティ障害障害とは異なっている。
DSM-IV-TRによると、以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。(1)批判・否認・または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。(2)好かれていると確信できなければ、人と関係をもちたいと思わない。(3)恥をかかされること、またはばかにされることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。(4)社会的な状況では、批判されること、または拒絶されることに心がとらわれている。(5)不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。(6)自分は社会的に不適切である・人間として長所がない・他の人より劣っていると思っている。(7)恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動にとりかかることに、異常なほど引っ込み事案である。
臨床的には本障害と社会恐怖や空間恐怖と合併することがあるとされており、その鑑別が重要になる。また我が国では、森田神経質や対人恐怖との異同が今後検討されなくてはならない課題となっている。

潰瘍性大腸炎 (Ulcerative colitis)
潰瘍性大腸炎は、心身医学の黎明期より代表的な心身症の1つとみなされてきた。本症の原因としては、現在自己免疫説が有力であるが、ストレス説やアレルギー説などもあり、まだ定説はない。臨床的には発症や再発・再燃、増悪、官界の遷延化に精神的ストレス要因の関与を認める場合が多い。
症状としては粘血下痢便・腹痛・発熱・体重減少などを主症状とする。治療はサラゾピリンとプレドニンを中心とした薬物療法がなされるが、ほとんどのケースで向精神薬物療法や精神療法、心身医学的療法が必要である。
本症患者は過敏で、傷つきやすく、強迫的傾向をもち、失感情症的、パンクチュアル、性的未熟性などの特徴がある。

快楽殺人 (Lust-murder)
殺人であって、その際に加害者が性的興奮を感じ、それを目的に犯行の行われるものをいう。加害者が性的に一時的または持続的に不能であり、殺人が性交の等価物になっているような事例が狭義の典型的な快楽殺人である。
ゼンフ(R. Senf)は快楽殺人を(1)被害者を性的に破壊することによって性欲の満足を得、破壊行為が性交の代償であって性交自体は行われない典型的な型、(2)殺人や死体損壊が性的興奮を高める性欲過多性快楽殺人者 (3)被害者の苦悶を見て性的に満足を得る苦痛嗜愛的快楽殺人者、の3型に分けた。
快楽殺人の場合、死体損壊を伴うことが多い。この場合の欲動構造として、性欲・所有欲・破壊欲動が相互に結合融合しているのが見られる。

解離 (Dissociation)
自我防衛機制のひとつ。現実に対処する上で、自己同一性を損なう事。ショッキングな出来事の後の記憶が無い場合等を指すが、極端な例としては、体外離脱の経験、さらには、人格が入れ替わる(解離性同一性障害:旧多重人格)を示す事がある。

カウンセリング (Counseling)
カウンセリングの科学的基礎を作ったのは、ウィリアムソン(E. G. Williamson)の『学生相談の行い方』[1930]以後とされ、ロジャーズ(C. R. Rogers)の『カウンセリングと精神療法』[1942]以後、非指示的カウンセリングが広く行われるようになった。
ウィリアムソンがカウンセリングの技術としてラポールの確立・自己理解の啓発・行為の計画と忠告などを挙げるのに対して、ロジャーズはクライエントによる場面構成によってカウンセリング過程への責任を持たせ、自己洞察と自己受容の発展を援助することに重点を置いている。 ともに言語的手段を媒介とし、直接面接による心理的相互作用によって、問題を解決することができるように援助する。
精神療法とカウンセリングの区別は、かつては後者がより表面的面接で、言語手段を主な媒介として、正常に近い対象を扱い、より認知的合理的だとみなされたが、最近ではその区別はなく、精神療法の一形式とみなされるようになった。

加害恐怖 (Blaptophobia)
他人や器物を病原体や汚物あるいは刀剣などによって傷つけるのではないかという強迫観念もしくは不安のこと。うつ病の症状として強迫症状が出現したり、うつ病者の病前性格の中に強迫人格が認められることは少なくないが、テレンバッハ(H. Tellenbach)は、抗うつ薬がこの恐怖に対して有効でありうるという臨床的な事実を踏まえ、加害恐怖はうつ病と密接な関連をもつとした。
テレンバッハによれば、加害恐怖に対しては抗うつ薬イミプラミンが有効とされているが、この恐怖はしばしば10年余にわたって持続する。またテレンバッハは、加害恐怖に基づく洗浄強迫には感情調整薬が有効であるのにくらべ、加害恐怖に基づかない洗浄強迫は感情調整薬に反応しにくいとしている。

加害的被害者 (Der verfolgende Verfolgte[独])
加害者的構えをもった被害妄想病者のことで、その病態は理性的被害妄想病と呼ばれる。傲慢な性格に発し、慢性的な経過をとり、一貫した妄想内容をもつが、幻覚や感覚全体の障害を欠き、人格水準の低下もなく理性的にとどまる。
ドイツ語圏でもクラフト-エービング(R. v. Krafft-Ebing)の好訴妄想という概念があり、理性的被害妄想病はほぼこれに相当する。19世紀フランスでは被害妄想病が大きなテーマであり、モノマニー概念を提示して妄想病の症状論をめざしたエスキロール(J. E. Esquirol)に対して、ラゼーグ(Ch. Lasegue)とファルレ(J.-P. Falret)は妄想の経過に注目し、一定の病期を経て最後は痴呆に至る被害妄想病を記載していたが、息子のファルレ(J. Falret)は痴呆に至らぬ場合があるのを認め、「加害的被害者」と呼んで特徴づけた。その後この概念はマニャン(V. Magnan)の変質者の加害的被害妄想病を経てセリュー(P. Serieux)とカプグラ(J. Capgras)の解釈妄想病につながっていく。

加害妄想 (Schadigungswahn[独])
罪責妄想の一種。自分が他人や周囲に(実際には起こっていない)不幸や災いをもたらしてしまった、ないし現にもたらしていると確信したり、本人が実際にはなんら関わっていないはずの現実の出来事や事件に対し、自分がその原因だったり犯人であると確信する妄想。
例えば、自分のせいで周囲の人々がみんな死んでしまう、町が破壊されてしまう、と患者は罪責的になり、強い希死念慮や自傷行為を伴うことが少なくない。 主に統合失調症に見られ、自分が世界の中心にあり周囲に影響を及ぼすと確信する点で、誇大的な要素も備える。従来、統合失調症の罪責妄想として被害的かつ受動的方向を基底に持つ濡れ衣的罪責妄想があげられたが、もう一方の極をなすのがこの一人歩きの能動性に特徴づけられる加害妄想である。

抱えること [ホウルディング] (Holding)
英国の小児科医で精神分析家であるウィニコット(D. W. Winnicott)が、早期の育児における母親や母親的環境の役割と機能を重視して、その母子関係論と分析的治療論において"handing" "object-presenting"などとともに使用する鍵概念である。日本語訳としては「抱えること」の他に「だっこ」「だくこと」「だき抱えること」などがあり、この豊富な訳語が"holding"の多義性と心身の両義性を示している。
まず、育児における愛の一形式である「だっこ」として、身体的な世話を基盤にして母親が赤ん坊をその腕で抱え、感受性豊かに適応して赤ん坊のニードを汲むこと、心身共に1つにまとめられることが注目され、乳幼児の育児や児童治療の基本となる。
理論面では、外的な育児のほど良いこと、パーソナルであることを取り上げ、「抱えること」の時間的な継続・維持・当てになることなどが、赤ん坊の自己が統合され存在し始めるための基盤となることを強調する。母親側の情緒障害や同胞の誕生などのためにこの「環境の供給」が突然破綻すると、「想像を絶する不安」を体験したり、生きることの流れを中断された乳幼児が自らを抱えるために迎合的な偽りの自己を発達させる。
このような理論を踏まえて、分析治療では、本当の自分をはぐくむために、退行して依存発展させる患者を治療環境が抱えることや、環境の失敗による外傷体験の内容を解釈することが重要となる。さらに統合失調症や境界性パーソナリティ障害の治療においては、その強い逆転移にもかかわらず一貫して「抱える環境」を設定し、これを維持しながら、避けがたい治療の失敗の意義を理解することそのものが治療的なのであり、入院治療やソーシャルワークの基礎理論として、精神分析の内外で幅広く生かされている。

過換気症候群 (Hyperventilation syndrome)
発作性に過換気が起こり動脈血CO2分圧の低下、呼吸性アルカローシスが生じ呼吸器系(呼吸困難・息切れ)、循環器系(胸部狭扼感・動悸・胸痛)、筋肉神経系(知覚異常・筋痙攣・意識障害)などの異常をきたす。
発症要因として心理的ストレスが強く関与することが多いので、呼吸器心身症の代表的疾患の1つとされている。発生は10〜20歳代に多く男女比は1:2〜4で女性に多い。
発作の持続時間は10〜60分である。発作時はジアゼパムの注射を行うが、紙袋により袋内に呼出した空気を再呼吸させるとよい。3〜5%のCO2を含むO2を吸入してもよい。間欠期は抗不安薬やベータ遮断薬を投入し、心理療法として自律訓練法も行われる。

学習性無力感 (Learned helplessness)
セリグマン(M. E. P. Seligman)は、逃避不可能な電撃を受けたイヌが、その後別の新しい状況において逃避学習を行うことが非常に困難になることを見出した。以前に逃避可能な電撃を受ける経験をしたか、あるいは電撃を受けるような経験が全くなかったイヌとは異なり、前もって電撃を回避しえないような状況におかれたイヌは、電撃を回避できるような状況になってもコントロールを及ぼそうとしなかったのである。コントロール不能な事象によって生じるこの反応の減弱効果は学習性無力感と名付けられ、その後人間においても同様の効果が生じることが知られるようになった。 セリグマンは、人間の無力感状態がうつ病の症状と似ていることから、学習性無力感理論は反応性抑うつの実験室モデルであると主張した。この理論によれば、学習性無力感とは、結果をコントロールできないという期待によって生じる動機づけの低下・認知の歪み・情緒の障害である。
しかしアブラムソン(L. Y. Abramson)らは、抑うつに関する学習性無力感理論の4つの問題を指摘した。それは、(1)コントロール不可能な出来事に出合った全ての人が抑うつに陥るわけではない (2)抑うつが一般的か特殊的か、あるいは慢性的か急性的かを説明できない (3)なぜ抑うつがしばしば自尊心の低下を伴うのかを説明できない (4)抑うつ的な人々が失敗を内的に帰属するという傾向が説明されていない、ということであった。 そして「人間における無力感の効果は、人が重大な負の結果をコントロールできないと知ったとき、それについてなされる原因帰属によって媒介される」と改訂モデルを示した。
彼らは、帰属の3つの次元、すなわち内在性・安定性・普遍性が抑うつの情緒的・同期的・認知的側面にそれぞれ影響を与えると考えた。 つまり、@無力感の原因を内的(自分)に帰属することにより、人は「個人的無力感」を生じる。このとき人は、制御不可能の原因が個人的欠陥にあると信じるようになるため、しばしば自尊心の低下を伴う。一方、人が自分以外の他者や環境に原因を求める(外的帰属)ならば、「普遍的無力感」になる。この場合は誰もが制御不能であることを意味するから、無力感が生じるとしても自尊心の低下は生じない。 A原因が永続的で、再現可能なものとして解釈される(安定的帰属)とき、うつ症状の慢性化が予測される。逆に原因が一時的とみなされるとき(変動的帰属)、うつ症状は慢性化しない。 B原因がさまざまな状況に渡って生じるとみなされる(普遍的帰属)とき、うつ症状は場面の違いを越えて一般化することが予測される。一方、原因が特殊な状況に限定されるとき、一般化は起こらない。
したがって彼らの理論においては、安定性次元と普遍性次元のほうが内在性次元より抑うつと関係が深く、安定性は抑うつの持続に、普遍性はその程度や広がりにかかわると考えられている。ただし、内在性次元は自尊心のような感情反応に影響することが示唆されているので、統制不能な負の出来事に直面した個人にとって最も不適応的な帰属は、内的安定的普遍的要因を強調するものであると考えられる。
さらに彼らは、人間はdけいごとに対してある種の説明を選ぶ習慣的な認知スタイルがあると考え、それを「帰属スタイル」と名づけた。帰属スタイルは、改訂モデルに基づいて内在性・安定性・普遍性の3つの次元を持つとされていて、負の出来事に対して内的安定的普遍的に原因帰属をする傾向が、抑うつの危険因子であると考えられている。

覚醒暗示 (Waking suggestion)
覚醒状態において与えられる暗示。人は誰でも大なり小なり暗示に反応する性質があるが、覚醒状態における暗示されやすさを被暗示性という。これには(1)一次的被暗示性(振子テスト、身体の動揺暗示などに見られるように観念が筋肉の運動をおこさせるというような直接形式)と、(2)二次的被暗示性(曖昧な刺激を与えておいて誘導質問を行う。また連続的に漸進的な刺激を与えて一定の期待感を作らせておき、そのあと同一な刺激に引き継ぐことによって生じる間接的形式)とがある。
催眠感受性は一次的暗示と相関が高い。被暗示性は男女間に大した差はないが、年齢的にみると子供のほうが成人よりも圧倒的に高い。知能や性格との関係にはまだ定説はない。また疲労や不安状態、麻酔下では高くなりやすい。
暗示の効果は、それを与える人の態度・名声・権威、また受けて手の信頼感・期待・心身の状態が大きく影響する。この他催眠状態から覚醒させる時に用いる暗示操作を覚醒暗示と呼ぶこともある。普通は1から10まで数えながらゆっくり覚醒させるのが良い。

覚せい剤 (Psychostimulant)
代表的な薬剤はフェニルイソプロピルアミン(アンフェタミン)とその誘導体。イソプロピルアミンを分子構造内に含む穏和な覚せい剤としては、ピプラドロル(商品名カロパン)、メチルフェニデイト(商品名リタリン)がある。
覚せい剤の薬理効果は精神興奮作用と中枢および末梢交感神経刺激作用で、神経伝達物質カテコールアミンの放出に基づく。覚せい剤は覚せい水準を高めて眠気をなくし、疲労感を除き、気分の高揚、意欲の増進などの精神賦活作用を持つ。この際、単純な運動作業は増大されるが、複雑な精神作業、注意の集中などはむしろ妨げられ誤りは増加する。また食欲減退効果もある。 薬効は容量・使用法(内服か静注)・使用者の精神状態・体質・性格によって変化しやすく、過量の場合には行動促迫、常同症状が支配的となる。薬効が消えると逆に脱力倦怠感を生じ、意気消沈するので、快・不快両面の強化作用から依存を形成しやすい。
臨床的には、ナルコレプシーの睡眠発作の除去、うつ病の意欲減退の改善に用いられ、また注意集中障害児の多動抑制に有効なこともある。依存状態には清明な意識のもとに幻覚妄想を特徴とする精神病が生じやすい。情意減退や気分変調をきたすこともある。覚せい剤は、モデル精神病研究に用いられた最初の合成物質である。

覚せい剤依存(症) (Amphetamine dependence)
覚せい剤依存徴候および関連した精神身体症状を有するが、明確な幻覚症状を伴わない状態をいう。精神保健法上にいう「覚せい剤の慢性中毒」と同義。
覚せい剤依存で一般的にみられる使用パターンは周期的使用であり、7〜10日間の周期で次の三相の構造を示す。2・3日間の<メチャ打ちの時期>には、不眠・食欲減退のほか、薬効時に常同行動、薬効消褪時に猜疑的・易怒的状態がみられる。 ついで1・2日間の<つぶれの時期>に入り長時間の睡眠によって疲労を回復すると、<薬物渇望期>に入り、焦燥的・易怒的状態となり過食傾向、薬物探索行動を示す。
このように生活は<覚せい剤中心性>を示し、摂食・睡眠などの生活のリズムが乱れ、覚せい剤の使用を自力で中止することが困難となる。 また、意欲面・情動面での性格変化が著明となり、仕事や家庭は放置されてしまう。覚せい剤の反復使用により、覚せい剤のもたらす快楽効果および食欲・睡眠の抑制作用においては耐性の形成がみられるが、常同行動の発現作用や幻覚妄想状態の惹起作用においては逆に感受性が増大する現象(逆耐性現象)がみられる。

覚せい剤精神病 (Amphetamine psychosis)
覚せい剤依存徴候を有するか、または有していたものに生じた、幻覚妄想を主とする精神病状態。
症状:多くの場合、自己の言動に対する監視通報、悪だくみの相談、自己に対する愚弄・指示・非難・威嚇・命令などを内容とする幻聴、思考が見透かされる感じなどを伴うため、患者は不穏な行動を示す。
発病時、病的体験は覚せい剤の注射と時間的関係を示す。幻覚や妄想の内容は場面状況的で、それに対して1つ1つ過敏に反応し、行動に移されることが多い。 覚せい剤を短時間に比較的大量使用したり強迫的使用の際には、直後から激しい精神運動性興奮を伴う急性錯乱状態ないし急性幻覚状態などの急性症候群を発症して緊急入院を要する例が少なくない。 発病後、早期に治療に結びつかなかったり、再発を繰り返した場合には、覚せい剤の使用を止めても長期にわたって、幻覚妄想状態が遷延持続し、治療抵抗を示すことがある。

覚醒時てんかん[癲癇] (Awakening epilepsy)
ヤンツ(D. Janz)らは大発作を示すてんかん患者を、発作が睡眠・覚醒リズムのどの時期に起きやすいかによって、覚醒時てんかん・睡眠時てんかん・不定時てんかんに分類する。 覚醒時てんかんでは、発作は覚醒後数分〜1時間に起こる(覚醒時発作)ことが多く、次いで仕事の後リラックスした時にみられる。
覚醒てんかん患者は、睡眠てんかんと比較して次のような特徴を持つ:90%は特発性または潜因性、欠神・ミオクロニー発作など全般発作を合併する場合がある、睡眠不足・飲酒など誘発因子の影響を受けやすい、安静覚醒時脳はに突発波が見られやすい、治療はフェニトインかフェノバルビタールが良く、予後はおおむね良好、 体系は細長型と闘士型、自律神経機能が不安定、睡眠は短く寝起きが悪い、夕方から夜に活動性が高まる、食欲・性欲が外界の刺激で高まりやすい、気分が変わりやすく持続性に乏しい、無頓着で病気・発作を否認するため治療や生活規制が困難になる、など。

学生相談室 (Student counseling room)
学生たちのさまざまな相談に応じるために大学内に設置されている相談援助機関。日本では戦後アメリカからカウンセリングが導入されるのと相まって、学生への全人的な教育と適応援助を唱えるSPS(Student Personnel Service)の理念のもと、1953年東大に最初の学生相談室が誕生した。
学生相談室での業務は相談活動が中心で、その内容は学業や適正・進路・性格や心理・家族や友人・サークル・生活・法律上のことなど、多岐に及んでいる。 加えて教職員や親へのコンサルテーション、医師と連携しての精神科的な問題を有する学生への援助、グループ活動や講演会を通じた心の健康の重要性の啓蒙、さらには一連の活動を通して得られた知見を大学側に還元しながら、より良い教育環境づくりを目指していく役割も大きかろう。 その意味でスタッフの中心であるカウンセラーは単なる相談業務のみならず、組織運営力や研究調査能力も要求される。

覚醒夢 (Day-dream)
醒めていて種々の情景を心に描き空想にふけること、またその空想の産物。現実に満たされない願望(野心・権力欲・性的欲求など)を充足する意味を持つ。 健康人でも、ことに児童期から思春期にかけては、ごく一般的な現象であり、芸術的創造の源ともなる。
しかしその持続や程度が甚だしく、本来の表象が著しく知覚的な性質を帯びるときは問題である。統合失調症にとっては空想が即現実となるが、この場合はもはや覚醒夢とは呼ばない。

獲得性てんかん[癲癇] 性失語(Acquired epileptic aphasia, Landau-Kleffner syndrome)
ランダウ=クレフナー(Landau-Kleffner)症候群は、てんかんをもつ獲得性失語症候群、てんかん性失語、けいれんを伴う言語性聴覚失認とも呼ばれ、1957年米国の耳鼻科医ランダウ(W. M. Landau)とクレフナー(F. R. Kleffner)によって報告された。
本症候群は、獲得性失語・多焦点性棘波および徐波睡眠時の棘・徐波放電を主徴とする小児期のてんかん症候群である。およそ3分の2の患児にてんかん発作と行動および精神運動障害が認められる。言語を含む聴覚失認および自発言語の急速な減少が必発する。
発作は全般性強直間代発作あるいは運動性部分発作の場合が多いが稀発である。通常15歳以前に寛解する。脳波異常も同じく消失する。本症候群は、徐波睡眠時に持続性棘・徐波を示すてんかんに類似している。

確認強迫 (Checking compulsion)
強迫現象の1つで、ある行為が実際に遂行されたか、ある状態で望ましいままに保たれているかを、不安にかられ何度も確認しないと気がすまない状態。安全・秩序・正確さが要求される日常行動に関係することが多い。
よく知られた例は、「鍵が間違いなくかかっているか」「ガスの元栓・水道の蛇口が締まっているか」「電気のスイッチが切れているか」などの確認に関するものである。また「衣服・食器・家具が整然と配置されているか」「書類・金銭が間違いなくしまってあるか」などに関するものもある。
ラックマン(S. J. Rachman)は、確認強迫と洗浄強迫の2つを強迫行為の主要なサブタイプとしてとりあげ、両者をいくつかの点で対照させて論じた。軽症のものは正常人にも見られるが、典型的には強迫神経症に出現する。

隔離 (Isolation)
相異なった観念と観念、意識内容と意識内容、行為と行為、自我状態と自我状態あるいは観念と感情などの間に本来存在しているはずの相互の脈絡や関連性を断ち切る無意識的・前意識的な心的機制で、分離または切り離しとも言う。
この機制は、フロイト(S. Freud)によってはじめて打ち消しと共に強迫神経症の特徴的な防衛機制の1つとして明らかにされた。本来この機制は、たとえば思考とか注意といった自我機能を基礎づけるものとして発達するものであり、後になって防衛機制としても転用されるのである。
すなわち、思考とくに論理的思考が可能となるのは、観念表象に本来備わっている欲動エネルギーや感情を切り離すことが必要であり、また注意集中は意識内容の中のどちらでも良い事柄や無関係なことを遠ざけることで可能になるのであるが、これらの切り離しや遠ざける働きが隔離である。
しかし、必要に応じて切り離された体験に現実検討を加え人格に統合する、といった適応性を失い病態化すると、キャメロン(N. Cameron)のいう隔壁化という防衛機制となる。この隔壁化は解離反応や強迫神経症にみられる。
防衛機制としての隔離は強迫神経症や強迫性格に一般的にみられるものであり、その精神療法を困難とする感情閉鎖も隔離の現れである。また防衛として隔離が使われる場合、ある観念や行為と別のそれらとを切り離すのにその間に時間的・空間的な問題が挿入されたり、切り離しを強化するためにその間に魔術的・呪術的な行為や観念が挿入されることもある。

家系研究 (Study of stamm)
ある形質の発現について家系を調べ、その形質がどのようにして各世代を通じて受け継がれるか、その遺伝様式を追求することを目的としている。精神疾患については多くの研究がなされたにもかかわらず、確実に遺伝様式が明らかになったものはほとんどない。
統合失調症については劣性と考えられる場合の多いことは一致しているが、単劣性・二元劣性というものがあり結論を得ていない。躁うつ病については優勢形式が認められているが単優性ではなく、優性1対および劣性2対の3因子性、あるいは不完全性優性を主張する者もある。
家系研究によって精神疾患の遺伝様式がなお明らかにされていない現在、患者の子孫あるいは血縁に、再びこの疾患が現れる確率は理論的には算出できないが、経験的遺伝予後と呼ばれる方法がある。これは精神疾患についてできるだけ多くの発端者を集め、各血縁者間における該疾患に出現頻度を集計的に算出したもので、理論的にではなく、経験的に精神疾患の患者の血縁者はどれだけ罹患する確率を持っているかがわかる。 また無作為に選んだ発端者から得られた一般成員での出現率と比較することによって、精神疾患の患者の血縁者に再び精神疾患を発現する危険率がかなり多いことがわかる。 集合的遺伝予後:発端者の配偶者は無視して、全ての子孫について当該疾患を集計することによる統合失調症のこの経験的遺伝予後は16.4%、躁うつ病者では22.4%である。

過大評価された考え (Overvalued Idea)
自分が属する文化・宗教のメンバーと共有できないような、比較的強固な信念を持つ事。ただし、その信念は、妄想ほど極端ではない。
(例:トイレの便座からAIDSを移されたのではないかと心配している患者が、その可能性が現実的ではない事を知りながらも、なお、HIV血液テストを望 む。)

※出典:新版精神医学事典(弘文堂)

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