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12歳という年齢

人間の精神的あるいは肉体的発達は、なだらかな右上がりの直線で進むものではなく、特定の年齢層で階段状に発達していくと
考えられています。すなわち、大きな変化があり不安定な時期と、変化が少なく安定的な時期が繰り返されるのです。

最初の大きな変化は、0歳〜3、4歳までの間に起こります。この間に、子供は順番に五感を得、母親との一体感から精神的に
分離独立し、自己と他者の違いを知り、はいはいから歩けるようになり、言葉を覚え、時間の概念を得て自分のまわりで起こった
事を時系列に語れるようになります。
その後、外見上しだいに成長の速度は鈍っていき、6、7歳以降は、フロイトの分類による潜伏期という比較的安定した成長期に
入っていきます。

この安定が再び混乱にシフトしていくのが、11、12歳です。この時期になると、身体の変化が表れてきます。子供の身体から
大人の身体になり始め、性的なアイデンティティーを自覚し始める事になります。また、認知的な発達の段階は、形式的操作段階
(ピアジェによる)に入り、抽象的あるいは仮説的な課題について考える事ができる様になります。

こうした11、12歳で起こる身体的・精神的発達上の急激な変化は、個人の自己感にも大きな影響を与えます。
彼らは、自己を客観的な視点で見つめようとし始めます。それまでは、主に家族という単位の中で自己感を形作ってきたのですが、
この頃になると、社会からどのように自分が映っているのかがより大きなテーマになってきます。この頃は、社会と言っても友達
社会が主なのですが、親友からの言葉よりも、他の友達から自分はどういうふうに評価されているのかについて気にするように
なります(文献1、P370)。
彼らにしてみれば、家族や親友が自分の事をよく言うのは当たり前で、それよりももっと広い社会という視点から自分を眺めようと
し始めるのです。そして、こうした視点の転換は、現実的な視点にシフトしていく訳ですから、自己に対して悲観的になりがちです。
「いつまでも子供でいたい」という幻想は打ち砕かれ、「限りない成功」を夢見る楽観性は、まわりを見渡した時に、「自分は何者
でもないのではないか?」といった不安にとって変わり得ます。ある研究によれば、自尊心は11歳から低下し始め、12〜13歳に
おいて最低のレベルになると言います(文献1、P371)。

この低い自尊心は、社会を見回し、自分の適性や得意分野を見つけて行くに従って、そして周りの人達から受け入れられる事に
よって回復していき、青年期の現実的なテーマにとりくんでいく事ができるようになります。
しかし、この低い自尊心に耐えられず現実的視点から目をそらす場合には、大人になる事あるいは、性的なアイデンティティーを
拒否する事になります。例えば、この時期に始まる女子の拒食症等がその例です。拒食症をはじめとする摂食障害にはさまざまな
原因がありますが、小学校5,6年生あたりから始まる拒食症の場合、食物の摂取を拒否し、大人の身体に成長する事あるいは、
女性という性を受け入れる事を否定し、子供のままでいようとする心理がある事も少なくありません。また、低い自尊心と直面する
事を避け、自分の優位性を歪んだ形で表現してしまう場合もあります。その典型が、学校におけるいじめです。
ちなみに少し古いですが、1998年の文部省のデータでは中学1年生に最もいじめ発生件数が多く、中学1年生のいじめ件数は
10,931件、続いて中学2年生の9,413件、小学6年生の5,736件となっています(文献2、P.190)。
また、自分の優位性を保とうとする心理は、動物や年少者に対する虐待となって表れる事もあるでしょう。

最近こんな話を聞きました。ある学校の校庭で、小学校1年生と6年生のグループがはちあわせして、結局一緒にドッジボールを
やる事になったのですが、1年生と6年生の混在チームで戦うのではなく、6年生は6年生だけでチームを作り、1年生だけの
チームと戦う事になったのだそうです。試合の結果は、もちろん6年生チームの圧勝で、1年生のチームは、ただただ身体の大きな
6年生のチームの強いボールに翻弄される事になったのだそうです。その様子は、集団的でサディスティックな弱い者いじめの様
だったと言います。
以前は、こんな事は起こらなかったように思います。6年生対5年生ぐらいはあったかもしれませんが、なんといってもこの場合、
相手は1年生ですからね。6年生が、思いっきり逃げまわる1年生にボールをぶつける図には、言い様のない不気味さを感じます。

12歳前後が人間の発達上人生第2の混乱時期である事は、今も昔も変わりがありません。
しかし以前は、拒食症も、いじめも、動物や年少者への虐待も、今よりもずっと少なかったはずです。おそらく、以前には、この
発達上の混乱を受け入れサポートする、なんらかのシステムが社会なり学校なり家庭なりにあったのでしょう。こうしたシステムが
いったいどんなものであったのか?何故失われてしまったのか?また、今の時代に必要なサポートシステムは、いったいどんなもの
なのか?真剣に考える必要があると思います。

文献1:Chp 14, Self & Identity Development, S. Harter, From At the Threshold: The Developing Adolescent,
    Feldman & Elliot (eds), Harvard Univ. Press., (1993), USA
文献2:杉原一昭他編著(2001年)、「事例で学ぶ生涯発達臨床心理学」
    福村出版



(向後善之)

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