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危機は成長の鍵−1

(本稿は、カウンセラー'sブログより抜粋したものです)

近年の心理学の世界では、「危険や敗北から学ぶ」という考え方が、さかんに語られています。

例えば、イギリスの小児科医で精神科医の D.W.ウィニコットの理論に、「ほぼよい母親( Good enough Mother)」というものが
あります。完璧な母親より、適度に手を抜く「ほぼよい母親」の方が、子供のためには良いという考え方で、母親の失敗が子供を
成長させる、としています。
母親が子供の欲求に十分に答えられなかったときに、子供が飛躍的に成長するチャンスがあるという考え方です。

生まれたばかりの子供は、自分と他人の区別がつきません。母親という存在は、自分と一心同体であると認識するでしょう。
彼にとっては、自分自身が唯一無二の存在なのです。

おなかがすくと、母親はミルクをくれます。おしっこが出れば、おむつをかえてくれます。
この時期の、母親と子供は、完全で心地よいマトリックスのなかにいると言ってよいでしょう。

しかし、完全さは、いつか敗れます。ミルクをあげたり、おしめを取り替えるのがちょっとだけ遅れてしまうこともあるはずです。
ちょっとした遅れなのですが、子供にしてみれば、天地がひっくりかえるほどの危機的なできごとなのです。
当然のことながら、子供は泣き叫びます。

しかし、やがて母親がやってきます。「あらー、おなかがすいていたのね」と、ミルクをくれます。
そのとき、子供は再び平穏さをとりもどします。

こうしたちょっとした不完全な対応が、子供に自己と他者(この場合は、母親)の違いを認識させていきます。
なぜなら、自分と一心同体であれば即座にやってくれるはずなのに、母親の行動は、微妙にずれているからです。


マーガレット・マーラーという児童心理学者は、乳幼児の発達を次のように考えました。

1)幼児自閉期(生まれたばかりで混乱している時期)

2)共生期(母子一体化の時期)

3)分離−独立期(子供が、他者の存在に気づき、独立した「個」としてふるまいはじめるとき)

4)再接近期(独立した個として、他者と自分が異なることを受け入れはじめる時期)

母親の「ちょっとした不完全な対応」が、3)の分離−独立期への発達のきっかけになるわけです。

こうした4つの段階は、生まれたときだけではなく、一生続くと言われています。
自分が慣れ親しんだ環境に違和感を感じ、その環境から抜け出すことを選択し、新たな環境を受け入れていくというプロセスを、
人間は、生まれてから最期のときまで何度も何度も繰り返し経験していきます。

初めて学校に行くときも、初めて恋愛をするときも、初めて挫折を味わうときも、全て同様のプロセスをたどります。
そのプロセスの中で、人は、なんらかの形で、それまで慣れ親しんだ世界観を大きく変えていきます。



(向後善之)

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