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完璧さのワナ

(本稿は、カウンセラー'sブログより抜粋したものです)

こちらのコラムで「ほぼよい母親」について、ちょっと触れました。完璧な母親よりも、適度に手を抜く、あるいは失敗する母親の
方が、子供の成長にとって望ましいという概念です。

さて、それでは、完璧に子供を育ててしまったらどうなるのでしょうか?

実は、「完璧」というものは存在しません。「完璧だ」と思ったとき、それは、その人が勝手に思い込んでいるにすぎないと
言ってよいでしょう。
「完璧」という思いに固執してしまうとき、そこには、無意識のコントロールが働きはじめます。完璧さを求めるあまり、子供を
無意識に自分の思い通りに動かそうとしてしまうのです。
そうなると、親からは完璧に思えても、子供にとっては、ちっとも完璧ではなくなります。
親からは、あるいは家族の周りからは、完璧な親子関係に写っていても、実はその内部では、無意識的なコントロールが存在する
ということもあります。これは、「見えない虐待」とも呼ばれます。

親も、周囲の人たちも、そして子供も、その実態がつかめないというのが、「見えない虐待」のこわさです。
わかりにくいために、被害者には、だれも気づかないうちに大きな傷がついてしまうのです。

その代表例が、「ダブルバインド」と「ミスティフィケーション」と呼ばれる、主に親から子になされる介入です。

「ダブルバインド」は、ほぼ同時に矛盾するメッセージを伝えるということです。
「なんでも好きなことを言いなさい」と言われて、自分の意見を述べたら、「そういうことは、おとなになってから言いなさい」と
言われてしまうような介入を指します。
「ダブルバインド」を受けた子供が戸惑ってしまうのは、当然のことです。なにしろ親の言うとおりにしたら、逆に怒られて
しまったのですから。
「ダブルバインド」を受け続けると、自分が何を感じ何を考えているのかがわからなくなってしまいます。

「ミスティフィケーション」は、R.D.レインが提唱していた概念で、子供の感情を搾取してしまう巧妙な介入です。
例えば、子供の希望が明らかではないうちに、あるいは、子供の希望をまったく無視して、「○△クンは、女の子なんかには、
興味ないんだよねー」なんて言ってしまうやり方です。
こんなことを言われ続けたら、女の子にワクワクする気持ちは、罪悪として認識されるようになってしまいかねません。
それって、とても不健康な状況ですね。

ダブルバインドやミスティフィケーションは、どこの家庭でも時には、行われると言ってよいでしょう。
たまに行われるのなら、問題はほとんどないのですが、それがひっきりなしに行われてしまうと、深刻な心の傷を子供に与えます。

こうした介入を受けた子供たちは、他者(親)の心の動きに常に敏感になり、それに自分を合わそうとし始めます。
その過程で、ワクワクした気持ち、反抗する気持ちなどは、罪悪感や自己嫌悪感、自責の念を伴うものとなり、その結果、自分の
気持ちを抑え、やがて、それは、自分を失うといった感覚に至ります。
子供たちは、他者の要求に答えようとして、必死に勉強したり、せっせと習い事に通い、けっして親に逆らわずに、不健全と
言われるTV番組には目もくれず世界文学全集を愛読書とし、自分の中の内的葛藤は微笑みでごまかすというようなことをしだします。

自己を失っていくにつれ、彼らの内面的な空虚感は、耐え難いほどになっていきます。そのことに、親を含め周囲の人は、だれも
気づかない場合があります。
彼らが親の期待にたまたま沿うことができるとき、彼らは、完璧なよい子に見えるからです。
そうした場合には、彼ら自身も、自分の心が搾取されていることに、ほとんど気づくことができません。

「見えない虐待」を受けている場合、親の期待に沿えなくなるとき、あるいは、自分のやり方が必ずしも世の中で通用しないことが
わかってきたときに、目に見える形で危機が訪れます。
その時、彼らは、自分の中の空虚感と直面せざるを得ません。それは、恐怖の体験です。
自分の中心には何も無い・・そんな感覚に襲われます。そして、彼らは、どうやって、その危機を乗り越えるのか迷い、途方に
くれてしまいます。なぜなら、彼らは、それまでの人生で、自らの力を信じることを禁じられてきたからです。

ある人は、過呼吸になり、また、ある人は、空虚感を埋めるために過食に走り、また、自分の中のおぞましさを吐き出すかのように
嘔吐を繰り返します。リストカットをする人もいるでしょうし、ひきこもる人もいるでしょう。
もちろん、「見えない虐待」が原因でなくても、こうした状態に陥ることは多々ありますし、また、「見えない虐待」を受けた
全ての人が、こうした状態になるわけではないことは、付け加えておきます。

彼らが回復するのは、自分自身と再会したときです。他者からの期待は、自分自身の希望とは必ずしも一致しません。
その違いを受け入れ、自分の感覚や感情や希望を自覚し、自分が、けっして空虚な存在などではなく、生きるエネルギーに満たされた
存在であることに気づいたとき、彼らは、それまでの苦悩から解放されます。

そうした危機から回復する力は、だれもが持っているものです。カウンセラーは、そうした力をクライアントさん自身が引き出し
活用するのをサポートする存在です。
そして、大切なのは、引き出し活用する力を元々持っているのは、クライアントさん自身だということです。



(向後善之)

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